「 小論文の書き方 」一覧

高まる小論文の重要性

なぜ小論文が重視されるのか?

まずは小論文の位置付けについて考えてみよう。

小論文は大学入試の科目としてかなり以前からあるが、高校において独立した科目ではない。そのため大半の高校では、国語(表現)の時間におまけ程度やるか、総合学習の時間で年に何度か実施する程度だ。

その一方で、小論文の重要性は年々増してきている。

理由として次の4つが挙げられる。

・大学数の増加

・少子化

・入試の多様化(総合型・学校推薦型選抜)

・将来における文章力の必要性

1991年、地方分権の推進と高まる進学率を背景に、旧文部省が大学設置のための規制を緩和したことで、私立大学を中心に大学数が増加した。1985年に460校だったのが、2018年には782校と、30年で300以上大学が増えた。

一方、少子化の影響で大学入学者の数は頭打ちだ。2009年ごろから「大学全入時代」という言葉を聞くようになったが、進学希望者が大学に入りたいと思えば(大学を選ばなければ)入れる時代になった。

そこで起こったのが、学生の奪い合いである。学生が来るのを待っているだけでは、魅力のない大学は定員割れしてしまい、経営が悪化する。事実、統廃合する大学・短大は年々増えている。そうかといってどんな学生でもよいからと入れてしまうと、大学の魅力がさらに薄れ、志願者が減ってしまう。

そこで、優秀な学生をいち早く獲得する手段として脚光を浴びるようになったのがAO入試(推薦入試の拡大を含む)である。

AO入試はアドミッション・オフォス入試の略で、各大学が求める学生像に照らし合わせて合否を決める入試のことだ。大学が「~の資格を持つ、このような学生を求めます」と募集し、その基準を満たした生徒が手を挙げる。1990年代にAO入試(や自己推薦入試)が始まったころは、スポーツ、文化芸能、その他課外活動などで特に秀でた実績のある人のための入試だったが、規模が拡大するにつれて、アドミション・ポリシー(学生の受け入れ方針)も「本学の教育理念に共感し、学ぶための努力を怠らない者」などと緩くなり、要は貴学に入りたいという意志さえあれば受験できるような入試となった。

しかし先ほども触れたが、誰でもよいというわけではない。

考えてみよう。

大学側からすると、どのような学生に来てほしいか?

・学ぼうという意欲があり、真面目に勉強する

・一定の学力・教養・見識・常識がある

・コミュニケーション能力があり、将来社会で活躍してくれそう

ごくごく当たり前の答えだ。広告塔となるような一部学生を除けば、大学としてはしっかり学んで、周囲の人たちと充実した学生生活を送り、将来それなりの企業や団体、公務員等に就職できる学生に来てほしい。もちろん大学のレベルや方針によって求める水準は違えど、特別高望みをしているわけではなく、大学生としてごく当然のことができる学生を望んでいる。

そのような人物かどうかを見極めるための手段として面接とともにあるのが小論文だ。

なぜ小論文か?

きちんとした文章が書けるか。問われていることに正しく答えられているか。どのような考えを持っているか。たんに暗記が得意というだけでなく、自分で考え、問題を解決する力があるか。

万能ではないにせよ、このようなことの一端を、文章を読み、判断することができるからだ。

文章力の有無が今後の人生を分ける

なぜ小論文、すなわち文章力が必要かというと、今後の人生にも関わってくるからだ。

大学の成績は、大半がテストかレポートで決まる。テストは高校までで主流の穴埋めや選択問題はなく、論述式がほとんどだ。レポートや発表も文章でまとめる。論文にいたっては文章力がないとまともには書けない。大学入試までは、暗記など大半がインプット中心の問題だったが、大学では持っている知識を論理立てて表現しなくてはならない。

その後の就職活動においても文章力が結果を大きく左右する。就職活動も基本的に大学入試のAO・推薦入試(総合型・学校推薦型選抜)と同じだ。エントリーシートと呼ばれる志望動機や自己PRなどを書いた応募書類と、面接が中心である。

一般入試で入った学生の中には文章が苦手という人も多い。そのような人は名の知れた大学にいても、就職活動で苦戦する傾向にある。実際のところ、彼らは苦手というよりは、たんに書く練習をしてこなかっただけの人が多い。書く練習をしなければ文章は上手にはならないし、自信も湧いてこない。

AO入試や推薦入試が増えた理由はここにもある。これら入試の対策をしてきた学生は、志望理由書や自己PR、小論文、面接などひと通り経験しているため、就職活動も抵抗なく始められる。就職実績を上げてほしい大学としては、当然就職活動に強い学生に来てほしい。これら入試は、そのような文章力やコミュニケーション能力の高い、将来社会で活躍してくれそうな学生を獲得する貴重な機会だ。学生としても、大学受験で文章の書き方を学び、面接の練習などをしておくことは今後の人生において大きなアドバンテージとなる。

入試制度改革による変更点

2020年(2021年度)から大学入試制度が変わり、AO入試は総合型選抜、推薦入試は学校推薦型選抜と名称が改まった。

二つの入試において変更点はいくつかあるが、まずは実施時期だ。

次のように変わった。

[出願]  従来      変更後 

総合型   8月以降 → 9月以降

学校推薦型 11月以降  → 現行通り

[合格発表]

総合型   規制なし   →   11月以降

学校推薦型 規制なし →   12月以降

このように、総合型選抜(旧AO入試)が後ろ倒しされた。

AO入試は、早ければ高校3年の9月に合格が決まったので、その後大学に入るまで勉強しない高校生が多かった。翌年の2月や3月まで死に物狂いで勉強した一般入試の入学者と学力に差がつくのは当然で、以前より問題視されていた。大学の中には、AO入試合格者に多くの課題を課すところもあったが、それもいわば苦肉の策であった。一般的にAO・推薦入試で入った学生は、文章力・コミュニケーション能力で一日の長があるものの、学力面で劣る学生が多いのがデメリット、負の部分であった。

この実施時期の変更によって、総合型選抜入学者でも合格が決まるのは最速で11月になった。もし総合型選抜に落ちた場合は、すぐに学校推薦型選抜、大学入学共通テスト(旧センター試験)が続くので、合格が決まるまでは一般選抜の勉強も並行して行わなければならない。これまでAO・推薦入試を中心に考えていた受験生に多かった、まずはAO・推薦に全力で取り組み、落ちたらそこから一般入試の勉強を本格的に始めるという方法は、今後取りづらくなる。

小論文を課す大学はさらに増える

次の変更点として、総合型・学校推薦型とも知識・技能を問う試験が必須となった。これまではスポーツ等の実績がある人や指定校推薦など、書類と形式的な面接のみで合否を決めることもできたが、今後は小論文、プレゼンテーション、口頭試問、実技、科目試験、資格・検定試験、大学入学共通テストの活用など、何らかの試験が必要になる。従来試験がなかった入試方式では、将来における必要性や認知度、実施のしやすさから小論文が最も多くなるだろう。

AO入試と推薦入試による四年制大学入学者は、2019年度で全体の46.7%に上る。私立大学に限ると54.2%と半数を優に超えている。それだけの受験生がこの二つの入試で入学している。

この傾向は今後さらに強くなる。AO入試は入学者の学力に対する懸念から、合格者を抑制する傾向にあった。これが試験を必須にすることで改善されるため、総合型選抜において募集人員の規制は設けられなかった。つまり、総合型選抜の募集人員を大幅に増やすことも可能になったのだ。

この二つの入試での入学者が少ない国立大学でも、総合型選抜・学校推薦型選抜による入学者を合計で30%まで増やす目標を立てている。2019年度でまだ16.3%ではあるが、東京大学・京都大学でも推薦入試が導入されたように、今後も増加傾向が続くのは間違いない。小論文が必要となる受験生は今後も増え続けていく。


小論文の上達法

小論文を上手に書くためには

では、小論文はどう学べばよいのか。

「どうやったら小論文がうまく書けますか?」

このようなことを高校生からよく聞かれるが、答えはこれしかない。

 小論文を正しく学ぶこと

日本語の文章なのでなんとなく書けそうな気がするのはわかるが、世の中そう甘くはない。結局のところ、あらゆる教科やスポーツ、芸事と同じで、小論文とは何か。何を書くことが求められているか。どのような文章がよい小論文なのか。小論文で高得点を得るためには何が必要か。このようなことを理解し、構成について学び、知識を蓄え、書く練習をしなければ、簡単な問題や自分の得意とするテーマのときに、たまたまうまく書けることはあっても、真の実力はつかない。

小論文は正しく学べば飛躍的に上達する

とはいえ「小論文なんてやったことない」「いまからやって間に合うの?」と焦る人もいるだろう。

だが、そう焦ることはない。

2013年に発行し、映画化もされた『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称ビリギャル)という作品を知っているだろうか。この作品で主人公さやかちゃんが現役合格した慶應義塾大学総合政策学部は、受験科目が2科目(選択次第で3科目)しかなく、うち1つは小論文だ。わずか1年少しという期間に、受験のスペシャリストである塾の先生から小論文を学ぶことで、さやかちゃんは私大の最高峰レベルである慶應に合格するまで成績を上げたわけだが、こと小論文においてはそう驚くことでもない。

小論文を日ごろからまめに勉強している高校生は極めて少ない。他の科目と違って、学校にも塾にも専任の先生はいない。そのため小論文がずば抜けて上手という高校生も、ごく稀にしかいない。つまりある程度努力すれば、ゴボウ抜きも可能ということだ。

書く練習や必要な知識を得ることはもちろん必要だが、小論文にはコツがある。コツさえ覚えれば、それほど時間をかけずに、成績を飛躍的に上げることも不可能ではない。大切なのは闇雲に勉強することではなく、小論文の特性を理解し、正しく学ぶということだ。

就職にも小論文は必要

自分は就職するから、あるいは専門学校へ行くから小論文は必要ないと考えている人もいるだろう。だが、そのような人にも小論文は必要だ。

企業や公務員の就職採用試験では履歴書やエントリーシートで志望理由・自己PRなどを書くが、これも小論文の一つだ。書類選考の大きな材料であり、面接の際の資料でもある。これらも小論文の書き方を学ぶ・学ばないで大きな差が出る。

就職しても日報、報告書、企画書、提案書、始末書、ビジネスメールなど文章は日常的に使う。

ところが、現行の日本の教育システムでは学校行事の思い出や読書感想文など文章を書かかされることはあっても、文章の書き方そのものを学ぶ機会は驚くほど少ない。だいたいが原稿用紙の使い方や表記・表現レベルで終わってしまう。小学校の先生も中学校の先生もそんなこと誰からも教わっていないからだ。そのため文章の書き方を学んだ人と学んでいない人で大きな差がつく。

高校で小論文を学ぶことは将来の糧となるまたとない機会だ。

この『高校生のための小論文の書き方』を熟読して、入試や就職試験はもちろんのこと、小論文・文章がこれからの人生における大きな武器になるよう学んでもらえたら幸いだ。


小論文とは何か

小論文は自分の考えを書く文章

次に小論文とはどのような文章かだ。

小論文とは読んで字のごとく小さな論文のことである。

論文と聞くと難しく思えるが、そう身構える必要はない。自分の論(考え・意見)を述べる文章と考えればよい。

日記なら日々の記録であるからその日に思ったことや感じたことを自由に書けばよいし、感想文なら面白かった、感動したなど感想を書けばよい。それと同じで小論文は与えられたテーマに対する自分の考えを述べればよい。

テーマ「~についてどのように考えるか」

⇒ 私は(~について)このように考える。

例を挙げてみよう。

テーマ「今年の目標」

⇒ 私の今年の目標は、毎日2時間自宅で勉強することだ。

こういうことだ。テーマ(聞かれている内容)について自分の考えを述べる。

ごく単純にいえば、このような文章が小論文である。

プラスそう考える理由・根拠

だが、それだけでは不十分だ。

そう考える理由、あるいは根拠があって説得力のある小論文になっていく。

小論文=自分の考え(意見)+理由(根拠)  

考えを答えるだけなら小学生でもできる。「将来の夢」というテーマで、プロサッカー選手になりたいという例で考えてみよう。

 僕がプロサッカー選手を目指す理由はサッカーが好きだからだ。サッカーをやるのは楽しい。僕は2年生のときに友だちのゆう君に誘われて始めたが、毎日外が暗くなるまで練習している。これからもっとうまくなって将来はメッシのようなスター選手になりたい。

考えは述べられているし理由もある。だが説得力はない。この文を読んで「この子は将来メッシのようになるに違いない」と思う人はいないだろう。

では、次のような文章はどうだろう。

 私の将来の夢はプロサッカー選手としてイタリアのトップリーグ、セリエAで活躍することだ。

私は小学2年のときからサッカーを始め、J1のジュニアユースチームで仲間たちと日々ハードな練習を積んできた。ユースに上がったあともチームの中心として18歳以下のトップカテゴリーである高円宮杯プレミアリーグで3位になるなど実績を上げたが、私個人はトップチームに上がることはできなかった。

その理由は1対1での弱さだ。私は身体が小さく、大柄の選手に当たり負けすることが多い。課題は重々承知していて、フィジカルトレーニングに力を入れるなど克服を目指したが、ユースチームの監督から現状J1では通用しないと判断されてしまった。

落ち込む私に監督は現役時代小柄ながらもセリエAで活躍したB氏の話をしてくれた。B氏は監督の高校時代の同級生だ。彼は小さな身体を大きく強くするのではなく、スピードを活かす方法で大柄な選手たちと勝負してきた。B氏はいまC大学のサッカー部のコーチをしているそうで、監督の話を聞き、私はC大学に進学して、B氏に教えを乞いたいと考えるようになった。

このように具体的に書くと、サッカーの実力はすでにたしかなものであり、夢を追いかけ、真摯にプロサッカー選手を目指しているということが伝わってくる。同じ内容でも理由説明がしっかり書かれていると俄然説得力が増してくる。

小論文で差がつくのは考えそのものではない。目指すものはなんでもかまわないし、課題文の筆者の意見に賛成なら得点が高く、反対なら低いということもない。

大事なのは理由や根拠の説明がしっかりとなされていて、説得力があるかどうかだ。説得力の有無によって小論文の評価は大きく分かれる。

そのために重要となるのが上記のようにできるだけ具体的に書いていくということ。そしてもう一つが、構成を意識して書くということだ。

構成を意識して書く

構成とは文章の組み立てのことだ。何をどのような順番で書くか、全体像をイメージしてから書くことでまとまりあるしっかりとした文章になる。

小論文の構成といえば、この二つの言葉が有名だ。

 序論・本論・結論  起承転結

・600~800字の小論文は4つ程度に段落分けすること。

・初めの段落(序論・起)があり、中心となる段落(本論・承転)があって、まとめの段落(結論・結)で終わる。

序論・本論・結論と起承転結という言葉は、この二つのことを教えるのに適していた。そのため小論文の授業や多くの参考書でよく使われていた。もちろん上の二つは小論文において大切なことである。

だが一方で、序論・本論・結論、起承転結では具体的に何を書いたらよいのかよくわからないという欠点がある。

序論は問題提起の段落といわれるが、たとえば「将来の目標」という小論文のテーマで問題提起といわれてもわかりにくい。

「将来の目標は生きていく上で必要なものなのだろうか」

問題提起という言葉を真に受けて、このような書き出しをする人もいるが、まったく必要のない文章である。

同じように「転」で話を転じるといっても、何をどう転じたらよいのかわからない。先ほどの例だと、将来の目標を二つにすればよいのかと思い、まったく別の内容を入れる人がいるが、話にまとまりがなくなってしまい、評価はかえって下がってしまう。

らくぶん社では構成をわかりやすく別の言葉で説明している。

それについて説明する前にまずは小論文の種類から見ていこう。


小論文の種類

小論文はテーマに対する自分の考えを述べていく文章であるが、テーマの提示の仕方によって大きく「テーマ型(課題提示型)小論文」と「課題文型(文章読解型・文章提示型)小論文」の二つに分かれる。

テーマ型小論文

テーマが簡単な語句や文章で提示されている小論文をテーマ型小論文(課題型・課題提示型)という。

何を題材に書いていけばよいのかがすぐにわかる小論文と考えればよい。問題テーマの内容は大まかにいうと、自分に関わるものと社会的な事柄に関するものがある。

(例)・私の得意科目

・人生でやり直したい出来事

・我が県が抱える問題点

・憲法改正を推し進めるべきか

短文形式のものも多い。

・集団での登下校を義務付けている小学校があるが、あなたはどのように考えるか

・インターネットやテレビによる通販の普及について、あなたの意見を述べなさい

推薦・AO入試で提出する志望理由書や自己推薦書も「○○大学を志望した理由を述べなさい」「あなたの長所・セールスポイントは何か」というテーマの小論文と同じであり、テーマ型小論文の一つである。

課題文型小論文

課題文型小論文(文章読解型・文章提示型などとも呼ばれる)は文章を読んで、それに対して自分の考えを述べるタイプの小論文である。設問に要約問題があることが多く、試験時間もテーマ型小論文に比べると長い。

課題文型小論文で大切なことは何が問われており、それに対して課題文は何を述べているのかを汲み取ることだ。その、いわゆる論点さえしっかりと押さえることができれば、書き方はテーマ型小論文と大きな違いはない。

課題文の代わりにデータやグラフ・図表などを読み取り、それに対して自分の考えを述べるデータ分析型(資料提示型)の小論文もあるが、読み取る対象が違うだけで書き方そのものは課題文型小論文と変わらない。


テーマ型小論文2つの書き方

テーマ型小論文の書き方にはこの2つのパターンがある。

・結論説明型 ・現状分析型

結論説明型

結論説明型は自分に関するテーマなど、答えが簡潔に答えられるテーマのときに使う。

(例)私の尊敬する人 私を変えた一冊 最近気になった話題

これらテーマに対して、まずズバッと答え(結論)から書き始める構成だ。

私の尊敬する人→私の尊敬する人は母親だ。

私を変えた一冊→私を変えた一冊はフランツ・カフカの『変身』だ。

最近気になった話題→私が最近気になった話題は多発する高齢ドライバーの事故である。

結論を書いたあとでその理由について、詳しく説明していく。そのため結論説明型だ。この書き方の利点は述べたいことが明快で、内容もブレづらいことにある。

現状分析型

現状分析型ははじめにそのテーマの現状について触れ、課題や問題点を分析しながら解決策(自分の意見)を述べていくという書き方だ。テーマに対する答えを一言で述べづらい場合に使う。

(例)・大型ショッピングモールの功罪(功罪とは良い点、悪い点)

・スマートフォンの普及で高校生はどのように変わったか

・離島や限界集落における医療についてあなたはどのように考えますか

「大型ショッピングモールの功罪は~だ。」と一言で述べるのは難しいので、このように書き出すとスムーズになる。

 大型ショッピングモールの進出は目覚ましい。いまや日本各地にあり、大都市やその郊外だけでなく、田園地帯のなかに突如巨大ショッピングモールが現れるということさえある。

まずはじめに大型ショッピングモールは現状どのような状況かを述べる。そして、そのあと功罪について分析していくという展開だ。

 スマートフォンの急速な普及により、高校生がスマートフォンを持つのも当たり前となった。私の所属する剣道部でも昨年度から練習や試合の集合場所など連絡事項はスマートフォンのアプリで行っている。

スマートフォンの問題テーマだと、いま高校生にとってスマートフォンはどのような存在なのかという現状報告から入る。それを踏まえて、どのような影響を与えているか、何がどのように変わったのかを分析していくという流れになる。

両パターンとも使えるテーマもある

単刀直入に答えることも、現状から入ることもできるテーマもある。

(例)飲食店は全面禁煙にすべきか

①私は飲食店は全面禁煙にすべきだと考えている。

②2020年の東京オリンピックを契機に、政府は飲食店の全面禁煙の方針を打ち出している。

①はテーマに対する答え、つまり結論から入る書き方、②は飲食店における禁煙の流れの現状から入っている。このような場合どちらが正解ということもないので、自分の書きやすいほうで書けばよい。ただ各々の書き方には特徴があるので、その点は考慮しておきたい。

[結論説明型]

長所:書きやすくわかりやすい。主張も最後までブレづらい

短所:結論から入るので字数が短めになる。様々な分析を述べるには不向き

[現状分析型]

長所:論を深めるのに向いている。字数を多くしやすい。

短所:気をつけないと、全体として何を述べたいかわかりづらくなる。

大切なことは書き始める前に全体の構成について考えることである。結論説明型、現状分析型のどちらを使い、何をどのように書いていくのか構想を練ってから書き始めよう。


結論説明型の書き方

結論(テーマへの答え)→説明(理由)→今後(抱負)

結論説明型の構成はこうなる。

まずはテーマに対する自分の答え・考え(結論)を述べ、その理由を説明する。そしてそれらを踏まえた上で、今後どうしていきたいか、どうすべきなのかを述べてまとめる。

では、例を見ていこう。

(例)私の短所

結論:私の短所はせっかちなところである。

説明:何かやらなければいけないことがあると、深く考えず行動に移してしまう。そのため早とちりをして失敗することや周りの人と歩調が合わないことがある。

今後:忘れていることや見落としていることはないか、周りの人はどのように考えているのかを確認してから行動するように意識していきたい。

結論→説明→今後という流れに沿って、内容を当てはめていく。志望理由書や面接の受け答えなどもこの構成だ。小論文の場合は、この構成の骨組みに具体的な話を入れ肉付けしていく。この短所の例でいえば、実際にどのような失敗したのか具体的な話を盛り込んでいく。最後「よって、私の短所はせっかちなところである。」と再び結論を書くように教えている人もいるが、それよりも今後の抱負を述べたほうがよい。

次は「礼儀の必要性」というテーマで構成を考えてみよう。

「礼儀の必要性は~だ」という書き出しだとしっくりこないので、「礼儀は~ために必要なものだ」と書き方を変えた。

結論:礼儀は周りから信用されるために必要なものだ。

説明:高校2年のとき私は剣道の試合でガッツボーズをし、顧問から叱責された。当時は納得できなかったが、振り返ってみると礼儀を守らず、相手への敬意も示さず、ただ勝つことだけに執着した私に、苦言を呈したかった気持ちもわかる。これでは勝者であっても、人として尊敬も信用もされない。

抱負:剣道で学んだ礼儀を忘れず、節度を持って、周りから信用される大人になりたい。

具体的なエピソードで膨らませる

上記の構成をもとに内容を膨らませていくのだが、その際大切なことはエピソード(体験談・具体例)を入れることだ。このエピソード選びがカギを握るといっても過言ではない。できるだけ長く詳しく説得力のある話を選ぼう。上の例では、小学生のときからやってきた剣道の体験談を伸ばし、礼儀の必要性を説いていく。

 礼儀が必要なのは、社会において欠かすことのできないものだからだ。礼儀を重んじない人は信用されない。私は剣道を通してそのことを学んできた。

私は小学3年生のときに剣道を始めたが、「剣道は礼に始まり礼に終わる」といわれるように、師範から礼儀をはじめに教えられた。しかし、小学、中学、高校と剣道を続けていくなかでその意識は薄れ、礼儀はいつしか形式的なものになっていった。

考え直すきっかけとなったのは高校2年のときの新人戦でのことだ。私は県大会準決勝で強豪選手との試合に勝ち、思わずガッツボーズをした。試合後も喜びのあまり礼を適当に済まして笑顔で顧問のもとにいったが、顧問は厳しい表情で、ガッツポーズと試合後の礼について私を𠮟責した。そのときには納得できない気持ちもあったが、時間が経つにつれ顧問の言葉を素直に受け止められるようになった。剣道は乱暴にいえば竹刀で相手を叩く競技である。対戦相手への敬意を払い、剣道の礼儀作法である礼式や所作を守らなくてはただの無法者の叩き合いになってしまう。勝ったことでその点をおざなりにした私に顧問が釘を刺したのも当然だ。このような態度では勝者であっても尊敬されることはないし、他人に指導する資格もない。

社会でも同じである。自分さえよければと自らの利益のためだけに行動しても周りから尊敬されることはない。礼儀を重んじ、他人の言い分や行動を敬い、節度を持って行動することで、人間関係も潤滑にいき、周りの信用を得ることができる。敬意も自然と集まってくることだろう。

剣道に関しても実生活に関しても、他人への敬意や自制心など私にはまだ至らない点が多い。まずは礼義作法や礼儀を重んじる心をいかなるときも忘れずに、節度を持って周りから信用される大人になるように努めていきたい。

剣道の精神、剣道の試合で礼儀について思い直すようになったきっかけ、なぜ礼儀は必要だと考えるか、今後礼儀に関して自分はどうしていきたいか、このような内容を入れて既定の長さの小論文に仕上げていく。上記の文でいえば、色の変わっている4段落目は丸々削っても文章は繋がる。いうなればどうしても必要な文ではないということだが、指定字数に合わせて書くにはこうした文も必要だ。できれば同じ内容でも長短書き分けられるように練習しておきたい。

はじめにテーマの答えをズバッと書く。そして詳しく書けるエピソードを入れて、その理由を説明する。最後は今後どうするべきか、どうしたいのかを述べて文章を締める。結論説明型はこのように書く。


現状分析型の書き方

テーマ型小論文の現状分析型の構成はこうなる。

現状→分析①(利点)→分析②(問題点)→今後(対策)

最初の段落は、結論説明型のようにテーマに対する答えを書くのではなく、テーマの現状、問題点について書く。一般的な小論文の参考書で「問題提起」と呼ばれている部分だ。

『挨拶できない若者について』というテーマで考えてみよう。

 いまの若者は挨拶ができないという大人の愚痴を聞くことがある。たしかに私の周りでも、朝や帰りに挨拶をしない人や、「ありがとう」「ごめんなさい」などといった簡単な礼や詫びもいわない人がいる。

このような書き出しだ。書き出しに個性的な内容は必要ないので、一般論や自分の周囲の状況などから始めるとよい。一文だと短いので、二文以上(句点が2つ以上)になるように心がけよう。

参考書のなかには問題提起ということで、この文の後に「ではなぜ、このような若者が増えたのであろうか」などと問いかけの文をつけているのもあるが、必要のない文である。そのまま「その理由として~」などと続けたほうが自然だ。

次に『現行の裁判員制度における問題点について、あなたの考えを述べなさい』というテーマで考えていこう。

「現行の裁判員制度における問題点は~だ」などと単刀直入に書くのが結論説明型だが、対して現状分析型では、まず裁判員制度の現状について述べる。

裁判員制度は施行より8年(平成21年5月)が経った。施行直後は国民の関心の高い裁判を中心に裁判員の下した判決が注目されたが、今では制度そのものへの関心も薄れつつある。

このような書き出しだ。まず裁判員制度がいまどうなっているのかを書く。このように8年と具体的に書いてあれば、読み手によく勉強しているなと思わせることができるが、わからない場合は無理せず「裁判員制度の導入により日本の裁判は大きく変わると見られていた。そのため施行直後は~」などと書くとよい。

 分析部分は2つセットで考える

現状を書いたあとその理由・原因を分析していく。現状分析型の場合は単純には述べづらいテーマが多いため、内容を2つセットにして考えていくとよい。書き方は大まかにいうと、2パターンある。

Ⓐ2つの分析を積み上げる…接続詞「また」「さらに」で繋ぐ

現状を踏まえて「その理由は~である」と述べたあと、「また~」「さらに~」と別の分析(理由)を付け加えるパターンだ。上の裁判員裁判の例だとこのようになる。

分析①

裁判員裁判への関心が薄れてしまった理由は、裁判員によって出された判決や量刑が、裁判員の入らない高等裁判所や最高裁判所の判決で覆るケースが多いからだ。裁判員裁判での死刑判決が、その後の裁判で無期懲役などに減刑されたことは一度や二度ではない。このように簡単に覆ってしまうようでは、裁判員のモチベーションが上がるわけもなく、何のための裁判員裁判かもわからなくなる。

分析②

また、守秘義務の重さも問題だ。現行制度では守秘義務違反を犯した場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処される。裁判員を経験してよかったという人も少なからずいるが、これでは裁判の感想やそこで得た経験を気軽に周囲の人に話そうという気にならないだろう。これではせっかくの経験も本人の中だけで終わってしまい、他人や社会と共有されない。一方アメリカなどでは陪審員に原則法律上の守秘義務はないため日常会話の延長上で裁判の話もできる。自分が感じたこと、疑問に思ったことなど、身近な人と共有し議論することができる。

「また」や「さらに」を使うと文を伸ばしやすいが、その反面理由をあれこれ並べただけということにもなりがちだ。他の「そして」「しかし」などにもいえることだが、接続詞は極力少なく、効果的に使うことを意識しよう。

Ⓑ逆接の接続詞を使って反論を入れる…「だが」「しかし」

小論文で最もよく使われるパターンである。よい面(メリット)を述べ、そのあとに悪い面(デメリット)を考える。利点のあとに問題点を述べる。

先ほどの裁判員裁判の例で、「また~」という文を「だが~」という文に変えてみよう。だが、までは同じ文章である。

 裁判員裁判への関心が薄れてしまった理由は、裁判員によって出された判決や量刑が、裁判員の入らない高等裁判所や最高裁判所の判決で覆るケースが多いからだ。裁判員裁判での死刑判決が、その後の裁判で無期懲役などに減刑されたことは一度や二度ではない。このように簡単に覆ってしまうようでは、裁判員のモチベーションが上がるわけもなく、何のための裁判員裁判かもわからなくなる。
だが、裁判員の下す判決が必ずしも正しいとはいえない。裁判員が犯行現場の残忍な写真や被害者遺族の涙ながらの懇願などを目にすれば、心情として重い量刑を与えたいと思ってしまうだろう。仮に私が裁判員になったとしても、そのような場面で冷静な判断を下す自信はない。法律の専門家ではない以上、裁判員が法律や判例より情に流されてしまうのは当然なのかもしれない。

このように接続詞を変えると必然的に内容も変わってくる。

小論文では誰が考えてもこうするべきだという問題は出ない。たとえば、消費税をなくして誰も困らないのであればなくせばよい。日本中の家に太陽光パネルをつけて日本の電力がすべて賄えるのなら、それを促進していけばよい。だが、そう簡単にいかないのには必ず理由がある。利点やメリットとセットで、想定される問題点やデメリットも考える。そのうえでどうするかを述べると深い論になっていく。

たとえば、消費税や太陽光の例でいうと以下のようなことを書く前に考える。

[消費税をなくす、税率を下げる]

利点:生活面で助かる。景気の浮揚が期待できる

問題点:その分歳入が減るが、財政をどうするのか。いまの社会保障制度が維持できなくなる。結局他の税を上げるか、社会保障などを削るしかない

[太陽光パネル]

利点:クリーンエネルギーで地球にやさしい。原子力発電をなくすことができる

問題点:コストは誰がどのように負担するのか。現実的ではない

これらを考えたうえでこのような構成に落とし込んでいく。

現状→利点(こうするとこのような効果やメリットが期待できる)→しかし(だが)+問題点(このような問題、デメリットがある)→(それを踏まえた上で)今後~していくべきだ

先に問題点や課題から述べたほうが書きやすいケースもあるので、下記のパターンも覚えておこう。

現状→問題点(~このような課題がある)→しかし(だが)+利点(それはこのようにすれば解決する。それにも勝るメリットがある)→今後~していくべきだ。

今後(対策)はできるだけ具体的に、実現可能なものにする

締めの文は結論説明型同様今後のことを書いてまとめる。自分のことであれば、自分は今後~していきたいと抱負や決意を述べる。社会的なテーマでは、今後何をどのようにしていくべきかを述べる。その際以下のことに気をつける。

①~してほしいと他人事のように書かない

②一般論や理想論だけを述べない。現実的に実現可能な内容にする

③とにかくできるだけ具体的に書いていく

先ほどの裁判員裁判のⒶのパターンの最後を考えてみよう。分析②という文章の次にこの文を入れる。

 守秘義務が課されている理由の一つとして自由な発言がしやすいためというのがある。たしかに判決に至るまで誰が賛成、反対で、誰が何をいったかということを公表してしまうと、後から非難にさらされてしまう恐れがあるため、その点には十分配慮すべきではある。だが、そもそも裁判員裁判という制度は国民の裁判への意識を高めるために始めた制度だ。どのような意見が飛び交ったかなどは名を伏せた上で発言できるようにすべきである。そうすることで裁判員裁判という制度にも再び光が当たるようになるだろう。

もう一つ別の文章、こちらはどうだろう。

 大切なのは裁判員裁判を活性化していくことだ。重大事件の判決結果は国民の意識も高く、SNS上やテレビ番組などで議論しているのもよく見かける。ここに実際に裁判員として関わった人の発言が加わればより深みを増すと思うが、現状ほとんどの人は守秘義務のため萎縮してしまい、表には出てこない。裁判に関わった人たちのプライバシーに十分注意を払った上で、裁判員の守秘義務をもっと緩和し、大いに語れる環境づくりをしていくべきだ。

似たような内容ではあるが。この二つを比べてどちらがよいだろう?

上の文の内容は守秘義務がなぜあるのかということについて知識がないと書けない。一方下の文はSNSやテレビの話など、知識というより普段の生活で感じたことを書いている。

小論文には正解がないので、上が正解で下が不正解ということはない。もっというと、この文だけでどちらの点数が高いかも一概にはいえない。全体の流れがあるからだ。

裁判員裁判のⒷの文の続きも考えてみよう。

この文は「裁判員裁判への関心が薄れていっている理由は、裁判員裁判の判決結果が二審三審で覆るケースが多いからだ。だが裁判員は法より情に流されるからそれも当然かもしれない」このような流れだ。まとめの文で大切なことは今後どうすべきかを具体的に述べることではあるが、それまでの文の流れを踏まえたものでなければならない。当然、守秘義務についてが中心のⒶのまとめ部分をくっつけてもおかしな文になる。

では、この文はどうだろう。

 必要なのはバランスだ。法の順守はもちろん大前提としてあるが、被害者やその家族、国民感情にも配慮するため裁判員裁判や被害者参加という制度をつくったのであり、そこを軽視しては本末転倒である。制度自体まだ完全ではないことを認め、裁判員裁判で出された判決の重みをどのように考えるのかなどバランスを取りながら問題点を洗い出し、一つずつ解決していくことで永続的に運用できる制度にしていくべきである。

裁判員は情に流されがちなのはわかるが、かといってそれを軽視しては国民を裁判に参加させる意味がなくなってしまう。この二つのバランスを考えながら、制度を修正していくべきだという流れだ。意見としてよくわかるし、この文だけ読むとまとまっているようには見えるが、前半部で述べている裁判員裁判制度への関心が薄くなっていることについては触れられていない。採点者によっては文章がやや逸れていると判断するかもしれない。この辺が現状説明型の難しいところである。

④それまでの内容を踏まえたものでなくてはならない

気をつけるべき点として、この項目も必要だ。

では、次の文はどうだろう。

 必要なのは現行制度の問題点を順次改善していくことだ。法の順守はもちろん大前提としてあるが、被害者やその家族、国民感情にも配慮するため裁判員裁判や被害者参加という制度をつくったのであり、そこを軽視するのは本末転倒である。国会やマスコミ、法曹関係者や法学部の学生、あるいは実際に裁判員を経験した人などがこの問題について積極的に取り上げ、国民全体で闊達な議論をしていかなくてはならない。(私自身も大学入学後、授業やレポートでこの問題について取り上げたり、実際に裁判を傍聴したりして、より考えを深めていきたい。)

国民の関心への問題に立ち返っている点では評価できるが、こちらは「国会やマスコミ~」のくだりがやや他人任せの印象だ。そのため()を加えたが、この辺は字数や好みにもよるので、自分が納得できるように書けばよい。ここまで書けていれば点数もほとんど変わらない。


テーマ型小論文・例題

テーマ型小論文の練習問題を解いてみよう。字数は400字、600字、800字のいずれかを選ぶこととする。

例題は「学校の課題をインターネットを通じて教えてもらうことについて」というテーマ型小論文だが、短文形式にしてある。

[問]

スマートフォンの普及により、勉強面でもインターネットを活用することが容易となったが、学校で出された課題をインターネット(たとえば質問サイトやSNSなど)を使い、他人から教えてもらうことについて、あなたはどのように考えるか述べなさい。

書いてみただろうか。

では、解説していこう。

質問(Q&A)サイトとは「~について教えてください」「~とは何ですか」など、質問するとその道に詳しい人が善意で回答してくれるサイトのことだ。Yahoo!(ヤフー)知恵袋が最も有名だが、無料でできるので中高生の利用者も多い。この例題は賛成、反対が明確に述べられるので解きやすいとは思うが、次のことを意識しよう。

設問に対する方向性を決めてから書く

つまり、どのような論調かを決めて書くということだ。賛成反対、イエス・ノーが明確に述べられる問題だからといって答えがその二つとは限らない。たいていの問題にはそれ以外の答えもある。

例題でいうと、

①全面的に賛成:こうしたサイトできちんと質問し、答えをもらうのも立派な能力である。積極的に利用していくべきだ。

②~した上で賛成:いきなりサイトで聞くのは安易すぎる。まずは自分でやってみて、それでもわからないときは質問サイトを利用すればよい。

③ヒントならよい:「~について答えを教えてください」など、課題を直接やってもらうような内容はよくないが、わからないことについてヒントを聞くのはよい。

④書いたものを読んでもらう:自分で一通りやってみて、答えやできたものを質問サイトで読んでもらい、よくない点は改善していくという使い方が理想だ。

⑤ネットはよいが質問サイトはダメ:インターネットの検索などは有効利用すべきだが、見知らぬ他人に答えを聞いては課題の意味がなくなる。

⑥基本的には反対:課題は図書館や教科書などを使ってやるべきだ。だが、どうしてもわからない場合、最終手段として質問サイトを使うのはやむを得ない。(②に近いが、否定的ニュアンスがより強い)

⑦全面的に反対:学校の課題はインターネットを使うべきではない。ネットを使うと身につかないし、ネット環境がない人もいるので不公平だ。

ざっと考えただけでもこれだけある。

①が賛成、⑦が反対で、残りは部分否定(条件付き賛成)と呼んでいる。部分否定は課題文型小論文でも詳しく説明するが、要は全面的に賛成ではないが、このような条件を付けた上でならOKという論調だ。書きやすく、自分の意見も述べやすいので、よく(自然と)使うテクニックだ。小論文に正解はないので、①~⑦あるいはその他、どの論調で書いてもかまわないし、どれを選んだからといって、そのことで得点が変わるわけではない。自分のスタンスに沿って選べばよい。

ただ、途中で内容がブレたり、何を書いているのか自分でわからなくならないよう、どのように論を展開していくのか書く前にきちんと決めておくことが大切だ。その際、自分の考えを説明するための具体例(体験談・エピソード・事例など)もセットで考えておこう。

テーマに対し、どのような方向性で書くか

それをどのように展開していくか(構成)

説明にどのネタを入れるか

あらかじめこの三つを決めておけば、書いている途中で迷うことは少なくなる。

例題は結論説明型でも現状分析型でも、どちらで書いてもよい。

結論説明型のメリットは構成が組み立てやすく、内容がブレないことだ。全面的に賛成・反対で書くときには特に有効だ。聞かれているテーマに対する答えをズバッと書いて、その説明を詳しく述べていく。先ほどの⑦の反対パターンで書いてみよう。

このような構成になる。

第一段落:学校の課題をインターネットの質問サイトで教えてもらうことついて、私は反対だ。(テーマに対する答え=結論)

第二段落:課題は自分の学力向上のために出されるものだ。質問サイトで答えを教えてもらっても身につかない。それでは課題の意味がなくなる。(結論の理由説明)

第三段落:また、特に小学生・中学生においては全員がインターネットを使えるわけではない。使える人、使えない人で不公平になる。(二つ目の理由:指定字数が短い場合は入れないほうがよい)

第四段落:インターネットの使い方についてガイドラインを作成し、それを周知徹底していくべきだ。(今後)

これに肉付けして(具体例を入れて)小論文に仕上げていく。

 スマートフォンの普及により、学校の課題をインターネットの質問サイトなどで教えてもらうこともできるようになったが、私はそれには反対だ。

私が小学6年生のとき、算数の比の宿題を自分でやらず、友人に頼んで答えを写させてもらったことがあった。宿題は問題なく終わったが、比についてまったく理解しないままテストを受けたため、結果は散々だった。そのためか比についてはいまでも苦手意識がある。

学校の課題はそれを解くこと、行うことによって、自分の学力を伸ばすために出されるものだ。インターネットの質問サイトで答えを他人に教えてもらったところで身につかない。それでは課題の意味がなくなってしまう。

インターネットによって様々なことが便利に、手軽に調べられるようになった。しかし、だからといってインターネットに頼りすぎると、それなしでは何もできなくなってしまう。簡単な漢字一つも、インターネットで調べなければわからない大人がいるのもその一例だ。学校の授業や課題は自分のためにあるという意識を忘れずに、学生の間はインターネットや見知らぬ他人に、安易に頼らないようにすべきだ。

最後の段落を構成段階のものと変えてみた。

続いて、4段落目に二つ目の内容を入れるパターンで字数を増やしてみよう。「教育格差」という言葉を入れると深みが増す。3段落目までは上記と同じだ。

 スマートフォンの普及により、学校の課題をインターネットの質問サイトなどで教えてもらうこともできるようになったが、私はそれには反対だ。

私が小学6年生のとき、算数の比の宿題を自分でやらず、友人に頼んで答えを写させてもらったことがあった。宿題は問題なく終わることができたが、比についてまったく理解しないままテストを受けたため、結果は散々だった。そのためか比についてはいまでも苦手意識がある。

学校の課題はそれを解くこと、行うことによって自分の学力を伸ばすために出されるものだ。質問サイトで答えを他人に教えてもらったところで身につかない。それでは課題の意味がなくなってしまう。

また小・中学生は特に、全員がインターネットを使えるわけではない。教育格差の広がりが問題視されているが、インターネット環境もその一つである。インターネットの使用を容認すれば、使える人、使えない人で不公平が生じる。パソコンやインターネットを使った学習を全面的に否定するわけではないが、持っている人だけが得するような状況はいじめの温床にも繋がりかねず、避けなくてはならない。

生徒の自主的な学習や自由研究などにはインターネットを活用してよい、授業や教科書でわかることについては禁止など、インターネットの使い方について文部科学省や地方自治体できちんとガイドラインを作成し、それを周知徹底していくべきだ。

次に現状分析型を使い、部分否定で書いてみる。

現状→分析①(メリット)→分析②(デメリット)→今後(まとめ)

このような流れである。中盤を反対にして、デメリット(問題点)→「しかし、」メリット(利点)の順のほうが書きやすい場合もあるので、両パターン頭に入れておこう。

②~した上で賛成:いきなりサイトで聞くのは安易すぎる。まずは自分でやってみて、それでもわからないときは質問サイトを利用すればよい。このような流れで書いてみる。

 パソコンやスマートフォンが普及し、いまや小中学生でもインターネットを使って調べものをするようになった。代表的な質問サイトであるヤフー知恵袋を覗くと、勉強面やその他について教えてくださいという小・中学生の質問や相談も数多く見られる。

私もインターネットを使って調べものをするが、英単語など検索すれば簡単に意味がわかるので、重い辞書をわざわざ持ち歩かなくて済む。わからないことを教師や親に聞こうとすると何かと煩わしく、わかるかどうかもたしかではないが、インターネットではたいていのことがすぐにわかる。近くの大人より手元のスマートフォンを重用するのは当然だ。

だが、学校の課題においてもすぐにインターネットに頼ればよいかというと、それは違う。同級生に何でもすぐに調べる調べ魔がいるが、彼女は自分で考えることを放棄しているようにも見える。特に学校の課題は考えることに意味があるのに、始めからそれを放棄してしまっては為にならない。

私は学校の課題に関して、どうしてもわからないことだけをインターネットで調べるようにしている。まずは考えて、苦労して、そこで初めて何がわからないのかが見えてくる。その上で、最終手段としてインターネットや質問サイトを使う。それが正しい使い方だと考えている。

2段落目にインターネットの利点、3段落目は問題点、最後は今後というより自分のスタンスを書いてまとめた。

採点については「書く上での技術」の「小論文の採点」という項目を参考にしてほしいが、テーマに答えられているか、その考えの根拠が示されているか、構成はうまくまとまっているか、内容に一貫性はあるか、ネタに独自性や深みはあるか、こういうところを自分自身で採点してみよう。小論文は他人に読んでもらうことも大切だが、自分で自分の文章の良し悪しがわかるようになることも大切である。

このサイトの例文もこれが正解というわけではない。構成については大いに参考にしてもらいたいが、内容面については、安易にこれがよい答案だと思わず「ここはどうかと思う」「自分ならこうするのに」などと、自分の意見を考えながら読んでほしい。


課題文型小論文の書き方

課題文型小論文とは

課題文型小論文とは与えられた文章を読んで設問に答えるタイプの小論文だ。文章読解型小論文とも呼ばれる。

設問は文章の内容をまとめる要約問題と、要約した内容や課題文の文章について自分の考えを述べる問題の二つが主だ。

テーマ型小論文の場合何を書けばよいかは一読すればわかるが、課題文型小論文はテーマや筆者(著者)の考えを文から読み取らなくてはならない。それさえできれば、書き方自体はテーマ型小論文とそう大きな違いはない。

課題文はこのような問題について書かれており、それについて私はこのように考える。

あるいは筆者はこう述べている。それに対して私はこのように考える。こういう流れで書けばよい。

しかし一筋縄ではいかないのが、課題文型小論文である。よく「このような型に流し込めば簡単」と教えている人や参考書があるが、そもそも問題が型通りではないので、そううまくハマるものでもない。それでもタイプや傾向があるので、練習していくうちにコツはわかってくるはずだ。

課題文のタイプを大まかに3つに分けるとこうなる。

①記事やデータなどある問題に対する報告がなされているもの(事実だけを述べているもの)

②評論や社説のように問題やテーマに対する筆者の考えが明快に述べられているもの

③エッセイや講演など論点がわかりにくいもの

実際にはどれかよくわからない、タイプ分けできるのだろうが、判別できないというのも多いので、これは参考程度に覚えておけばよい。

 

設問も5種類ほどに分類される。

A 課題文全体をまとめた(踏まえた)上で自分の考えを述べるタイプ(要約問題がない)

B 全体ではなく文章の一部に下線が引かれ、その点について述べるタイプ(要約のない下線部問題)

C 要約問題があり、要約を踏まえた上で自分の考えを述べるタイプ(要約と小論文がセットになっている)

D 要約問題とは別の箇所に下線が引かれ、その点について述べるタイプ(要約と小論文が分かれている)

E 課題文や資料はあくまで自分の考えを述べる上での材料・ヒントでしかないタイプ(テーマ型小論文の補足資料)

一般的にABEは文字数が多く、要約問題があるCDは小論文部分の文字数は少ない。だが国公立大学の後期試験のように時間が長く、資料が多い場合は設問も文字数も多い。

これも境界があいまいなので、分類自体は参考程度に覚えておけばよい。だが、設問によって課題文の読み方も変わるので、課題文を読む前に設問は見ておこう。受験校がすでに決まっている場合は、設問パターンはほぼ同じなので、過去問題で確認しておこう。

課題文の読み方

要約(要旨をまとめる)問題がある場合は必要な箇所と不必要な場所を選別しながら読むとよい。(必要な場所はかっこでくくったり、線を引く)

下線部問題の場合は、下線部の前後を特に重点的に読む。(他は流し読み程度で構わないことが多い)

筆者ではなく出題者の意図を読み取る

記事などの文章を書いている人を筆者、本・書物を書いている人を著者、小説や脚本などを書いている人を作者と呼ぶ。これらは最後に書いてある出典を見て判断するが、わからない場合や書いていない場合は筆者、あるいは「課題文では~」という書き方をする。

文章形式のテーマ型小論文だと出題者が文章を書くが、課題文の大半は出題者以外の誰かが別の目的を持って書いたものである。当然課題文の筆者は小論文の問題になることを意識していない。また、著書や記事の一部分を抜き出していることが多いので、全文を読まないと作者が真に意図している内容がわからないこともよくある。現代文の問題を当の作者が解いたら不正解だったという話も聞くが、それは十分あり得る話である。

小論文で(現代文でも)大事なことは筆者ではなく、出題者(問題を作成した人)の意図を読み取ることだ。何をもってこの問題をつくったか、何を書いてもらおうとしているのか、その点を意識して課題文を読んでいこう。

小論文の問題をつくるのは難しい。あいまいな文は使いづらいし、誰が考えても同じような答えになる問題もよくない。新聞記事は毎日無数にあり、著書を決めても何百ページもあるなかどのページを選ぶかも容易ではない。そのなかで選ばれた文章だ。必ず書いてほしいテーマ(論点)がある。そこを感じ取ることが課題文型小論文を書く上で重要な一歩だ。


課題文型小論文の構成

課題文や設問のパターンによって異なるが、課題文型小論文の基本構成はこうなる。

①筆者の考え(とその根拠)→自分の考え→考えの理由(根拠)→今後どうするべきか
②課題文の要旨(要約・論点)→自分の考え→考えの理由(根拠)→今後(結論)

書く内容を課題文から読み取るという点以外はテーマ型小論文と大きな違いはないが、様々なバリエーションがある。

特に筆者の意見や課題文の論調(要旨)に賛成か反対、部分的に賛成、部分的に反対かで構成は変わる。下記のようなパーツをうまく組み合わせて小論文に仕立てていくわけだが、いかなる場合でも自分の考えとその理由だけは欠かせない。字数が短い場合や論調によって、最後の今後どうするべきか(今後の対策・これからのあり方)は、入れないケースもある。

・課題文の要旨(要約・論点)・筆者の考え ・筆者の考えの根拠 ・自分と反対の意見(とその根拠) ・一般論(現状)・自分の考え ・自分の考えの理由(根拠・具体例)・今後どうするべきか(対策・見通し)

テーマ型小論文現状分析型では分析①・分析②、利点・問題点、メリット・デメリットと説明していた部分が、課題文型の場合「自分の意見とその反対の意見」となる。自分の意見とその意見の問題点・デメリット・反対意見についても考察することで論に説得力や深みが出る。

では例題を見ていこう。

 消費税がまた上がるようだが、金持ちから取れよと思う。消費税を2%上げたところで、増える税収はたかだか4兆円ほどだ。それだけなのになぜ庶民から取ろうとするのか。消費税を上げたら確実に消費は冷える。景気が失速してしまう危険性だって否めない。
日本には1000兆円もの預貯金がある。しかもこの金の多くは何の役にも立たず眠っている。庶民のなけなしの4兆円より、この1000兆円をどうにかしたほうがいいに決まっている。
その方策として考えられるのは貯蓄税だ。1000万円以上の預貯金に数パーセント課税する。庶民には関係ない。金に余裕のある人からいただく。単純計算すると、1000兆円に年間0.4%課税するだけで消費税と同じ4兆円税収が増える。預金するのは損だと考える人も出てきて、消費や投資が活性化する。眠っていた金が市場に回り、景気が上向く。まさにいいことづくめだ。
貯蓄税を導入すれば、預金がタンスや貸金庫に回るだけだという批判があるが、同じことはペイオフ導入のときにもいわれていた。そんな人は全体の一部だし、仮にそうなったってデカいタンス(金庫)や貸金庫業が潤って金が回るんだから、それはそれでよい。そんな批判は金持ちの難癖でしかない。

※ペイオフ…銀行・信用金庫などの金融機関が破綻したとき、1000万円までの預金(とその利息)が保護される制度。つまり、それ以上の預金については保護されない。日本では2005年に導入されたが、それ以前預金は全額保護されていた。

[設問1]筆者が述べる貯蓄税のメリットについて100字以内でまとめなさい。

まずは要約問題である。要約問題では「筆者は~」「課題文では~」とつける必要はない。また、原稿用紙の冒頭1マスは空けない。改行もしない。

要約のコツはこの3つ

①キーワードを拾う

要約の採点をする際、キーとなる言葉や文章が入っているかどうかを見る。したがってその入れるべき言葉は何かを探すことが必要だ。キーワード(キーセンテンス)は1つとは限らない。

②具体例やたとえ話は削る

文章では述べたいことを補足するため具体例やたとえ話を入れるが、要約では不要なので、その部分は削る。

③自分でまとめる

キーワード(キーセンテンス)を取り入れて、設問に合うようにまとめる。現代文の試験より指定字数は長いので、文を書き抜いて組み合わせてもうまくいかないことが多い。最後は自分の言葉でまとめる意識でやったほうがよい。

設問1は貯蓄税のメリットについてなので、それが述べられている部分を探していく。

消費税がまた上がるようだが、金持ちから取れよと思う。消費税を2%上げたところで、増える税収はたかだか4兆円ほどだ。それだけなのになぜ庶民から取ろうとするのか。消費税を上げたら確実に消費は冷える。景気が失速してしまう危険性だって否めない。
日本には1000兆円もの預貯金がある。しかもこの金の多くは何の役にも立たず眠っている。庶民のなけなしの4兆円より、この1000兆円をどうにかしたほうがいいに決まっている。
その方策として考えられるのは貯蓄税だ。1000万円以上の預貯金に数パーセント課税する。庶民には関係ない。金に余裕のある人からいただく。単純計算すると、1000兆円に年間0.4%課税するだけで消費税と同じ4兆円税収が増える。預金するのは損だと考える人も出てきて、消費や投資が活性化する。眠っていた金が市場に回り、景気が上向く。まさにいいことづくめだ。
貯蓄税を導入すれば、預金がタンスや貸金庫に回るだけだという批判があるが、同じことはペイオフ導入のときにもいわれていた。そんな人は全体の一部だし、仮にそうなったってデカいタンス(金庫)や貸金庫業が潤って金が回るんだから、それはそれでよい。そんな批判は金持ちの難癖でしかない

貯蓄税という言葉の前後に注目する。金額はたとえ話なので省いた。黄色のついた部分がキーセンテンスなので、まずこの部分を抜き出してみる。冒頭に「貯蓄税は」という言葉だけ足した。

貯蓄税は庶民には関係ない。金に余裕のある人からいただくだけで消費税と同じ税収が増える。預金するのは損だと考える人も出てきて、消費や投資が活性化する。眠っていた金が市場に回り、景気が上向く。(94字)

字数がちょうどよいので、これでもほぼ正解である。ただ始めの文は違和感があるので、わかりやすく設問に合うようにブラッシュアップする。消費税と同じだけ税収が増えるというのも0.4%という仮定の税率の話なので、書き方を変える。

低所得者を含めた国民全体から取る消費税と違い、貯蓄税は富裕層からだけ徴収するので一般庶民に影響は少ない。預金したままでは損になるため、眠っていた金が消費や投資に回り、市場が活気づいて景気が上向く。(98字)

消費税の部分を膨らませるのが難しければ、水色の部分をアレンジして足してもよい。

貯蓄税は富裕層からだけ徴収するので一般庶民に影響は少ない。預金したままでは損になるため、眠っていた金が消費や投資に回り、市場が活気づいて景気が上向く。金庫や貸金庫業など関連ビジネスの可能性も広がる。(99字)

キーワード(センテンス)を拾って、あとは自力でアレンジし、まとめる。

要約もコツをつかんで練習すれば、必ず上達する。

 

[設問2]筆者の考える貯蓄税についてあなたはどのように考えるか述べなさい。

「貯蓄税」について述べる小論文なので、タイプ分けすれば下線部問題といえるが、この課題文は短く、貯蓄税についてのみ語られているので、全体の内容を踏まえて解くタイプの小論文と変わらない。筆者の主張は消費税ではなく、貯蓄税を導入せよと明快なので、この意見に賛成か反対かまず方針を決めよう。

反対意見について考える

この課題文の大半は貯蓄税のメリットについてなので、これを読むと貯蓄税が万能で素晴らしいものに感じるかもしれない。しかし、小論文では誰もが諸手を挙げて賛成するようなテーマはまず出ない。貯蓄税にまったく問題がないのであれば、とうの昔に導入されてはしないだろうか。賛成・反対どちらかで書くにしても、まずは反対意見(問題点・デメリット)について考えてみよう。

まず思い浮かぶのは本文に書いてある、多額の預金していると税金がかかるので預金以外の方法をとる人が増えるということだ。このことに関する影響はいくつか考えられる。

①タンス預金(自宅への現金の保管)をする家庭やその金額が増えれば、それを盗もうという人が現れ、治安が悪化する可能性がある。

②預貯金は銀行の貸付の原資となるが、貯蓄税を導入すれば銀行から預貯金を引き上げる大口顧客が増え、銀行の経営が悪化し金融危機が起こるのではないか。

③筆者の述べる貯蓄税は適用対象があいまいである。1つの銀行、1つの口座1000万円以上を対象とするのか。それともある銀行で500万円、別の銀行に500万円ある場合も適用されるのか。仮にそうだとして、マイナンバー制度の導入で国が複数口座を把握することは理論上可能かもしれないが、その膨大な手間は誰がどのように負担するのか。また、貯蓄税は法人にも適用されるのか。当座預金や証券会社の口座などにも適用されるのか。海外銀行の口座も把握できるのか。そちらへ逃げるだけではないのか。

他にも問題はある。

④貯蓄税は大きな貯蓄のある富裕層から税金を取ろうというものだが、特定層への狙い撃ちは税の公平性という観点から正しいといえるのか。

⑤現在、預金の利子は20%課税されている。また、法人の内部留保と同じように、預金は所得税、相続税などですでに課税された金だ。貯蓄税は二重課税に当たらないか。

⑥筆者のいう1000兆円は庶民や法人の預貯金を合わせた数字である。富裕層だけに課税する貯蓄税を導入したところで、消費税に代わるような税収になるのか。

考え得るだけでもこれだけある。思いついたことを全部書いてしまうとまとまりがなくなるので、指定字数に合わせて使う内容を選ぼう。指定字数が短め(200~400字)の場合は一つの内容だけを膨らませてシンプルに述べる。①の治安悪化はやや安直に見えるので、できれば他の理由にしたい。

貯蓄税に反対で〈筆者の主張→反対→その理由→今後〉このような構成で述べてみる。

筆者は貯蓄税という新しい税金を提案している。筆者の案では1000万円以上の預金口座に課税するというもので、国民全体から幅広く徴収する消費税ではなく、富裕層から取ろうというものである。

私は貯蓄税には反対だ。政府・与党からすれば、富裕層への狙い撃ちは庶民の支持を得やすく障壁が少ないだろうが、このような政策を取れば富裕層としても様々な方策を考えるに違いない。2016年、パナマ文書と呼ばれるタックスヘイブン(租税回避地)に関わる機密文書が明るみに出て、世界的なスキャンダルとなったが、そのなかには日本人の名前もあった。富裕層としても税金を抑えたいと考えるのは当然のことで、課税を強化すれば、海外移住や経営する法人・工場の海外移転など、人や資産、資金の海外流出がいまよりもさらに加速するに違いない。

貯蓄税の導入によって短期的に税収は増えるかもしれないが、長期的に見れば日本にとって大きな損失になりかねない政策である。(395字)

字数が少なく、内容的にも必要ないので、最後の今後(まとめ)はあっさりで、対策などは入れていない。指定字数がさらに少ない場合や設問によっては最初の段落も丸々削ってもよい。そのあたりはケースバイケースで対応できるようにしたい。

「たしかに、しかし」型

「小論文は型で書け」という教え方があるが、その際使うのが、この「たしかに~、しかし~」という型である。必ずしもこの型を使う必要はないし、この型でしか書けないというのでは困るが、構成を考える上で非常に使いやすい型なので覚えておこう。

この型を使った構成はこのようになる。

筆者の意見、あるいは課題文の内容

「たしかに~」筆者の意見(自分とは反対の意見)

「しかし~」それについての反論(自分の意見)とその根拠

結論・今後どうするべきか

例題でいうと、

貯蓄税とはこのようなものである。

たしかに筆者の、消費税は一般国民への影響が大きく、富裕層から取るべきという意見には一理ある。(何か例を入れて膨らませる)

しかし、貯蓄税は適用対象があいまいで問題点が多い。(問題点③の内容を入れる)

そのため、私は貯蓄税には反対だ。

このような構成になる。通常まとめの部分は今後の対策などを述べるが、全面的に反対の場合は「そのため(したがって)導入に反対だ」と書いて終わるほうが自然だ。あるいは、この部分はなくても構わない。

また、次のような書き方もある。

部分否定(条件付き賛成)

全面的に賛成・反対するのではなく、一部分を否定するか、あるいは同意のため条件をつける形だ。これも「たしかに、しかし」型を使うことが多いが、結論は(今後に向けての)別の提案もしくは譲歩・妥協・折衷案を述べる。くだけた感じでいうと、こんな論調だ。

「たしかにその通りだけど、こういう問題があるよね。じゃあこうしたらどうだろう?」

先ほどの例題で見ていこう。

たしかに方針には賛成する。しかし貯蓄税には無理がある。したがって、別の方策にすべきだ。

貯蓄税とは~のようなものである。
たしかに、筆者のいうように消費税は一般国民への影響が大きく、可処分所得(使えるお金)が多い富裕層に課税するという方針には賛成だ。
しかし貯蓄税は適用対象があいまいで、抜け道が多く現実的ではない。

貯蓄税ではなく所得税の累進課税の税率を上げたほうがよい。

部分否定は課題文型小論文の大半に使えるので、使い勝手がよい。

筆者の意見が正論の場合や自分と同じ考え、あるいは自分にとって詳しくない話題だと、課題文に賛成することもあると思うが、全面的に賛成という論調は意外と書きにくい。

全面的賛成は、ただたんに課題文をなぞったような内容になってしまいがちだ。賛成するにしても以下の内容を入れて、自分なりにアレンジしていこう。

①体験談など独自のネタ

②反対意見へのさらなる反論

③筆者の意見を進める内容

①は自分の経験・知識などから、筆者と同じようなことを感じたという論調だ。

②は想定される問題点の反論を述べ、論をより強固なものにする。

③は筆者の意見をさらにこうするべきだと一歩進める。

例題では①の体験談を入れるのは難しいので、②か③を入れる。賛成だが、こういう問題点があるので、その点はこのようにすべきという論調だ。下は「たしかに」は入っていないが、部分否定(条件付き賛成)だ。結論も先ほどのものと変えている。

筆者は貯蓄税という新しい税金を提案している。これは1000万円以上の預金口座に課税するというもので、国民全体から幅広く徴収する消費税ではなく、富裕層から取ろうというものである。(冒頭の段落は反対のときと同じ文)

私も筆者の述べる貯蓄税には可能性を感じる。(たんに「筆者の意見に賛成だ」でもよいが、工夫した言い回しのほうが独自色が出る)日本においても所得格差は広がっており、所得の再分配は課題である。経済の活性化のため、日本にある1000兆円という莫大な預貯金を市場に回すことは有効な手段となりうる。

だが、貯蓄税には問題点が多い。筆者はいわゆるタンス預金については適用しないと述べているが、はたしてそれでよいのか。1000万円以上の口座を複数に分けた場合にも課税しないのか。海外銀行には適用できるのかなど、適用基準も不透明だ。不完全なシステムだと不公平感が増し、富裕層からの不満が噴出するに違いない。(反対意見③の内容)

貯蓄税導入のためには抜け道をなくしていかなくてはならない。私はタンス預金、複数口座、海外口座などにも課税すべきだと考える。そのために想定される課題を洗い出し、実現可能なシステムを模索していく必要がある。(問題点を加味した上で今後の提案)

このように賛成の場合でも課題文から離れた内容を入れ、論を再構築するとオリジナリティのある小論文になる。


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