現状分析型の書き方

テーマ型小論文の現状分析型の構成はこうなる。

現状→分析①(利点)→分析②(問題点)→今後(対策)

最初の段落は、結論説明型のようにテーマに対する答えを書くのではなく、テーマの現状、問題点について書く。一般的な小論文の参考書で「問題提起」と呼ばれている部分だ。

『挨拶できない若者について』というテーマで考えてみよう。

 いまの若者は挨拶ができないという大人の愚痴を聞くことがある。たしかに私の周りでも、朝や帰りに挨拶をしない人や、「ありがとう」「ごめんなさい」などといった簡単な礼や詫びもいわない人がいる。

このような書き出しだ。書き出しに個性的な内容は必要ないので、一般論や自分の周囲の状況などから始めるとよい。一文だと短いので、二文以上(句点が2つ以上)になるように心がけよう。

参考書のなかには問題提起ということで、この文の後に「ではなぜ、このような若者が増えたのであろうか」などと問いかけの文をつけているのもあるが、必要のない文である。そのまま「その理由として~」などと続けたほうが自然だ。

次に『現行の裁判員制度における問題点について、あなたの考えを述べなさい』というテーマで考えていこう。

「現行の裁判員制度における問題点は~だ」などと単刀直入に書くのが結論説明型だが、対して現状分析型では、まず裁判員制度の現状について述べる。

裁判員制度は施行より8年(平成21年5月)が経った。施行直後は国民の関心の高い裁判を中心に裁判員の下した判決が注目されたが、今では制度そのものへの関心も薄れつつある。

このような書き出しだ。まず裁判員制度がいまどうなっているのかを書く。このように8年と具体的に書いてあれば、読み手によく勉強しているなと思わせることができるが、わからない場合は無理せず「裁判員制度の導入により日本の裁判は大きく変わると見られていた。そのため施行直後は~」などと書くとよい。

 分析部分は2つセットで考える

現状を書いたあとその理由・原因を分析していく。現状分析型の場合は単純には述べづらいテーマが多いため、内容を2つセットにして考えていくとよい。書き方は大まかにいうと、2パターンある。

Ⓐ2つの分析を積み上げる…接続詞「また」「さらに」で繋ぐ

現状を踏まえて「その理由は~である」と述べたあと、「また~」「さらに~」と別の分析(理由)を付け加えるパターンだ。上の裁判員裁判の例だとこのようになる。

分析①

裁判員裁判への関心が薄れてしまった理由は、裁判員によって出された判決や量刑が、裁判員の入らない高等裁判所や最高裁判所の判決で覆るケースが多いからだ。裁判員裁判での死刑判決が、その後の裁判で無期懲役などに減刑されたことは一度や二度ではない。このように簡単に覆ってしまうようでは、裁判員のモチベーションが上がるわけもなく、何のための裁判員裁判かもわからなくなる。

分析②

また、守秘義務の重さも問題だ。現行制度では守秘義務違反を犯した場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処される。裁判員を経験してよかったという人も少なからずいるが、これでは裁判の感想やそこで得た経験を気軽に周囲の人に話そうという気にならないだろう。これではせっかくの経験も本人の中だけで終わってしまい、他人や社会と共有されない。一方アメリカなどでは陪審員に原則法律上の守秘義務はないため日常会話の延長上で裁判の話もできる。自分が感じたこと、疑問に思ったことなど、身近な人と共有し議論することができる。

「また」や「さらに」を使うと文を伸ばしやすいが、その反面理由をあれこれ並べただけということにもなりがちだ。他の「そして」「しかし」などにもいえることだが、接続詞は極力少なく、効果的に使うことを意識しよう。

Ⓑ逆接の接続詞を使って反論を入れる…「だが」「しかし」

小論文で最もよく使われるパターンである。よい面(メリット)を述べ、そのあとに悪い面(デメリット)を考える。利点のあとに問題点を述べる。

先ほどの裁判員裁判の例で、「また~」という文を「だが~」という文に変えてみよう。だが、までは同じ文章である。

 裁判員裁判への関心が薄れてしまった理由は、裁判員によって出された判決や量刑が、裁判員の入らない高等裁判所や最高裁判所の判決で覆るケースが多いからだ。裁判員裁判での死刑判決が、その後の裁判で無期懲役などに減刑されたことは一度や二度ではない。このように簡単に覆ってしまうようでは、裁判員のモチベーションが上がるわけもなく、何のための裁判員裁判かもわからなくなる。
だが、裁判員の下す判決が必ずしも正しいとはいえない。裁判員が犯行現場の残忍な写真や被害者遺族の涙ながらの懇願などを目にすれば、心情として重い量刑を与えたいと思ってしまうだろう。仮に私が裁判員になったとしても、そのような場面で冷静な判断を下す自信はない。法律の専門家ではない以上、裁判員が法律や判例より情に流されてしまうのは当然なのかもしれない。

このように接続詞を変えると必然的に内容も変わってくる。

小論文では誰が考えてもこうするべきだという問題は出ない。たとえば、消費税をなくして誰も困らないのであればなくせばよい。日本中の家に太陽光パネルをつけて日本の電力がすべて賄えるのなら、それを促進していけばよい。だが、そう簡単にいかないのには必ず理由がある。利点やメリットとセットで、想定される問題点やデメリットも考える。そのうえでどうするかを述べると深い論になっていく。

たとえば、消費税や太陽光の例でいうと以下のようなことを書く前に考える。

[消費税をなくす、税率を下げる]

利点:生活面で助かる。景気の浮揚が期待できる

問題点:その分歳入が減るが、財政をどうするのか。いまの社会保障制度が維持できなくなる。結局他の税を上げるか、社会保障などを削るしかない

[太陽光パネル]

利点:クリーンエネルギーで地球にやさしい。原子力発電をなくすことができる

問題点:コストは誰がどのように負担するのか。現実的ではない

これらを考えたうえでこのような構成に落とし込んでいく。

現状→利点(こうするとこのような効果やメリットが期待できる)→しかし(だが)+問題点(このような問題、デメリットがある)→(それを踏まえた上で)今後~していくべきだ

先に問題点や課題から述べたほうが書きやすいケースもあるので、下記のパターンも覚えておこう。

現状→問題点(~このような課題がある)→しかし(だが)+利点(それはこのようにすれば解決する。それにも勝るメリットがある)→今後~していくべきだ。

今後(対策)はできるだけ具体的に、実現可能なものにする

締めの文は結論説明型同様今後のことを書いてまとめる。自分のことであれば、自分は今後~していきたいと抱負や決意を述べる。社会的なテーマでは、今後何をどのようにしていくべきかを述べる。その際以下のことに気をつける。

①~してほしいと他人事のように書かない

②一般論や理想論だけを述べない。現実的に実現可能な内容にする

③とにかくできるだけ具体的に書いていく

先ほどの裁判員裁判のⒶのパターンの最後を考えてみよう。分析②という文章の次にこの文を入れる。

 守秘義務が課されている理由の一つとして自由な発言がしやすいためというのがある。たしかに判決に至るまで誰が賛成、反対で、誰が何をいったかということを公表してしまうと、後から非難にさらされてしまう恐れがあるため、その点には十分配慮すべきではある。だが、そもそも裁判員裁判という制度は国民の裁判への意識を高めるために始めた制度だ。どのような意見が飛び交ったかなどは名を伏せた上で発言できるようにすべきである。そうすることで裁判員裁判という制度にも再び光が当たるようになるだろう。

もう一つ別の文章、こちらはどうだろう。

 大切なのは裁判員裁判を活性化していくことだ。重大事件の判決結果は国民の意識も高く、SNS上やテレビ番組などで議論しているのもよく見かける。ここに実際に裁判員として関わった人の発言が加わればより深みを増すと思うが、現状ほとんどの人は守秘義務のため萎縮してしまい、表には出てこない。裁判に関わった人たちのプライバシーに十分注意を払った上で、裁判員の守秘義務をもっと緩和し、大いに語れる環境づくりをしていくべきだ。

似たような内容ではあるが。この二つを比べてどちらがよいだろう?

上の文の内容は守秘義務がなぜあるのかということについて知識がないと書けない。一方下の文はSNSやテレビの話など、知識というより普段の生活で感じたことを書いている。

小論文には正解がないので、上が正解で下が不正解ということはない。もっというと、この文だけでどちらの点数が高いかも一概にはいえない。全体の流れがあるからだ。

裁判員裁判のⒷの文の続きも考えてみよう。

この文は「裁判員裁判への関心が薄れていっている理由は、裁判員裁判の判決結果が二審三審で覆るケースが多いからだ。だが裁判員は法より情に流されるからそれも当然かもしれない」このような流れだ。まとめの文で大切なことは今後どうすべきかを具体的に述べることではあるが、それまでの文の流れを踏まえたものでなければならない。当然、守秘義務についてが中心のⒶのまとめ部分をくっつけてもおかしな文になる。

では、この文はどうだろう。

 必要なのはバランスだ。法の順守はもちろん大前提としてあるが、被害者やその家族、国民感情にも配慮するため裁判員裁判や被害者参加という制度をつくったのであり、そこを軽視しては本末転倒である。制度自体まだ完全ではないことを認め、裁判員裁判で出された判決の重みをどのように考えるのかなどバランスを取りながら問題点を洗い出し、一つずつ解決していくことで永続的に運用できる制度にしていくべきである。

裁判員は情に流されがちなのはわかるが、かといってそれを軽視しては国民を裁判に参加させる意味がなくなってしまう。この二つのバランスを考えながら、制度を修正していくべきだという流れだ。意見としてよくわかるし、この文だけ読むとまとまっているようには見えるが、前半部で述べている裁判員裁判制度への関心が薄くなっていることについては触れられていない。採点者によっては文章がやや逸れていると判断するかもしれない。この辺が現状説明型の難しいところである。

④それまでの内容を踏まえたものでなくてはならない

気をつけるべき点として、この項目も必要だ。

では、次の文はどうだろう。

 必要なのは現行制度の問題点を順次改善していくことだ。法の順守はもちろん大前提としてあるが、被害者やその家族、国民感情にも配慮するため裁判員裁判や被害者参加という制度をつくったのであり、そこを軽視するのは本末転倒である。国会やマスコミ、法曹関係者や法学部の学生、あるいは実際に裁判員を経験した人などがこの問題について積極的に取り上げ、国民全体で闊達な議論をしていかなくてはならない。(私自身も大学入学後、授業やレポートでこの問題について取り上げたり、実際に裁判を傍聴したりして、より考えを深めていきたい。)

国民の関心への問題に立ち返っている点では評価できるが、こちらは「国会やマスコミ~」のくだりがやや他人任せの印象だ。そのため()を加えたが、この辺は字数や好みにもよるので、自分が納得できるように書けばよい。ここまで書けていれば点数もほとんど変わらない。

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