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課題文型小論文の書き方

課題文型小論文とは

課題文型小論文とは与えられた文章を読んで設問に答えるタイプの小論文だ。文章読解型小論文とも呼ばれる。

設問は文章の内容をまとめる要約問題と、要約した内容や課題文の文章について自分の考えを述べる問題の二つが主だ。

テーマ型小論文の場合何を書けばよいかは一読すればわかるが、課題文型小論文はテーマや筆者(著者)の考えを文から読み取らなくてはならない。それさえできれば、書き方自体はテーマ型小論文とそう大きな違いはない。

課題文はこのような問題について書かれており、それについて私はこのように考える。

あるいは筆者はこう述べている。それに対して私はこのように考える。こういう流れで書けばよい。

しかし一筋縄ではいかないのが、課題文型小論文である。よく「このような型に流し込めば簡単」と教えている人や参考書があるが、そもそも問題が型通りではないので、そううまくハマるものでもない。それでもタイプや傾向があるので、練習していくうちにコツはわかってくるはずだ。

課題文のタイプを大まかに3つに分けるとこうなる。

①記事やデータなどある問題に対する報告がなされているもの(事実だけを述べているもの)

②評論や社説のように問題やテーマに対する筆者の考えが明快に述べられているもの

③エッセイや講演など論点がわかりにくいもの

実際にはどれかよくわからない、タイプ分けできるのだろうが、判別できないというのも多いので、これは参考程度に覚えておけばよい。

 

設問も5種類ほどに分類される。

A 課題文全体をまとめた(踏まえた)上で自分の考えを述べるタイプ(要約問題がない)

B 全体ではなく文章の一部に下線が引かれ、その点について述べるタイプ(要約のない下線部問題)

C 要約問題があり、要約を踏まえた上で自分の考えを述べるタイプ(要約と小論文がセットになっている)

D 要約問題とは別の箇所に下線が引かれ、その点について述べるタイプ(要約と小論文が分かれている)

E 課題文や資料はあくまで自分の考えを述べる上での材料・ヒントでしかないタイプ(テーマ型小論文の補足資料)

一般的にABEは文字数が多く、要約問題があるCDは小論文部分の文字数は少ない。だが国公立大学の後期試験のように時間が長く、資料が多い場合は設問も文字数も多い。

これも境界があいまいなので、分類自体は参考程度に覚えておけばよい。だが、設問によって課題文の読み方も変わるので、課題文を読む前に設問は見ておこう。受験校がすでに決まっている場合は、設問パターンはほぼ同じなので、過去問題で確認しておこう。

課題文の読み方

要約(要旨をまとめる)問題がある場合は必要な箇所と不必要な場所を選別しながら読むとよい。(必要な場所はかっこでくくったり、線を引く)

下線部問題の場合は、下線部の前後を特に重点的に読む。(他は流し読み程度で構わないことが多い)

筆者ではなく出題者の意図を読み取る

記事などの文章を書いている人を筆者、本・書物を書いている人を著者、小説や脚本などを書いている人を作者と呼ぶ。これらは最後に書いてある出典を見て判断するが、わからない場合や書いていない場合は筆者、あるいは「課題文では~」という書き方をする。

文章形式のテーマ型小論文だと出題者が文章を書くが、課題文の大半は出題者以外の誰かが別の目的を持って書いたものである。当然課題文の筆者は小論文の問題になることを意識していない。また、著書や記事の一部分を抜き出していることが多いので、全文を読まないと作者が真に意図している内容がわからないこともよくある。現代文の問題を当の作者が解いたら不正解だったという話も聞くが、それは十分あり得る話である。

小論文で(現代文でも)大事なことは筆者ではなく、出題者(問題を作成した人)の意図を読み取ることだ。何をもってこの問題をつくったか、何を書いてもらおうとしているのか、その点を意識して課題文を読んでいこう。

小論文の問題をつくるのは難しい。あいまいな文は使いづらいし、誰が考えても同じような答えになる問題もよくない。新聞記事は毎日無数にあり、著書を決めても何百ページもあるなかどのページを選ぶかも容易ではない。そのなかで選ばれた文章だ。必ず書いてほしいテーマ(論点)がある。そこを感じ取ることが課題文型小論文を書く上で重要な一歩だ。


課題文型小論文の構成

課題文や設問のパターンによって異なるが、課題文型小論文の基本構成はこうなる。

①筆者の考え(とその根拠)→自分の考え→考えの理由(根拠)→今後どうするべきか
②課題文の要旨(要約・論点)→自分の考え→考えの理由(根拠)→今後(結論)

書く内容を課題文から読み取るという点以外はテーマ型小論文と大きな違いはないが、様々なバリエーションがある。

特に筆者の意見や課題文の論調(要旨)に賛成か反対、部分的に賛成、部分的に反対かで構成は変わる。下記のようなパーツをうまく組み合わせて小論文に仕立てていくわけだが、いかなる場合でも自分の考えとその理由だけは欠かせない。字数が短い場合や論調によって、最後の今後どうするべきか(今後の対策・これからのあり方)は、入れないケースもある。

・課題文の要旨(要約・論点)・筆者の考え ・筆者の考えの根拠 ・自分と反対の意見(とその根拠) ・一般論(現状)・自分の考え ・自分の考えの理由(根拠・具体例)・今後どうするべきか(対策・見通し)

テーマ型小論文現状分析型では分析①・分析②、利点・問題点、メリット・デメリットと説明していた部分が、課題文型の場合「自分の意見とその反対の意見」となる。自分の意見とその意見の問題点・デメリット・反対意見についても考察することで論に説得力や深みが出る。

では例題を見ていこう。

 消費税がまた上がるようだが、金持ちから取れよと思う。消費税を2%上げたところで、増える税収はたかだか4兆円ほどだ。それだけなのになぜ庶民から取ろうとするのか。消費税を上げたら確実に消費は冷える。景気が失速してしまう危険性だって否めない。
日本には1000兆円もの預貯金がある。しかもこの金の多くは何の役にも立たず眠っている。庶民のなけなしの4兆円より、この1000兆円をどうにかしたほうがいいに決まっている。
その方策として考えられるのは貯蓄税だ。1000万円以上の預貯金に数パーセント課税する。庶民には関係ない。金に余裕のある人からいただく。単純計算すると、1000兆円に年間0.4%課税するだけで消費税と同じ4兆円税収が増える。預金するのは損だと考える人も出てきて、消費や投資が活性化する。眠っていた金が市場に回り、景気が上向く。まさにいいことづくめだ。
貯蓄税を導入すれば、預金がタンスや貸金庫に回るだけだという批判があるが、同じことはペイオフ導入のときにもいわれていた。そんな人は全体の一部だし、仮にそうなったってデカいタンス(金庫)や貸金庫業が潤って金が回るんだから、それはそれでよい。そんな批判は金持ちの難癖でしかない。

※ペイオフ…銀行・信用金庫などの金融機関が破綻したとき、1000万円までの預金(とその利息)が保護される制度。つまり、それ以上の預金については保護されない。日本では2005年に導入されたが、それ以前預金は全額保護されていた。

[設問1]筆者が述べる貯蓄税のメリットについて100字以内でまとめなさい。

まずは要約問題である。要約問題では「筆者は~」「課題文では~」とつける必要はない。また、原稿用紙の冒頭1マスは空けない。改行もしない。

要約のコツはこの3つ

①キーワードを拾う

要約の採点をする際、キーとなる言葉や文章が入っているかどうかを見る。したがってその入れるべき言葉は何かを探すことが必要だ。キーワード(キーセンテンス)は1つとは限らない。

②具体例やたとえ話は削る

文章では述べたいことを補足するため具体例やたとえ話を入れるが、要約では不要なので、その部分は削る。

③自分でまとめる

キーワード(キーセンテンス)を取り入れて、設問に合うようにまとめる。現代文の試験より指定字数は長いので、文を書き抜いて組み合わせてもうまくいかないことが多い。最後は自分の言葉でまとめる意識でやったほうがよい。

設問1は貯蓄税のメリットについてなので、それが述べられている部分を探していく。

消費税がまた上がるようだが、金持ちから取れよと思う。消費税を2%上げたところで、増える税収はたかだか4兆円ほどだ。それだけなのになぜ庶民から取ろうとするのか。消費税を上げたら確実に消費は冷える。景気が失速してしまう危険性だって否めない。
日本には1000兆円もの預貯金がある。しかもこの金の多くは何の役にも立たず眠っている。庶民のなけなしの4兆円より、この1000兆円をどうにかしたほうがいいに決まっている。
その方策として考えられるのは貯蓄税だ。1000万円以上の預貯金に数パーセント課税する。庶民には関係ない。金に余裕のある人からいただく。単純計算すると、1000兆円に年間0.4%課税するだけで消費税と同じ4兆円税収が増える。預金するのは損だと考える人も出てきて、消費や投資が活性化する。眠っていた金が市場に回り、景気が上向く。まさにいいことづくめだ。
貯蓄税を導入すれば、預金がタンスや貸金庫に回るだけだという批判があるが、同じことはペイオフ導入のときにもいわれていた。そんな人は全体の一部だし、仮にそうなったってデカいタンス(金庫)や貸金庫業が潤って金が回るんだから、それはそれでよい。そんな批判は金持ちの難癖でしかない

貯蓄税という言葉の前後に注目する。金額はたとえ話なので省いた。黄色のついた部分がキーセンテンスなので、まずこの部分を抜き出してみる。冒頭に「貯蓄税は」という言葉だけ足した。

貯蓄税は庶民には関係ない。金に余裕のある人からいただくだけで消費税と同じ税収が増える。預金するのは損だと考える人も出てきて、消費や投資が活性化する。眠っていた金が市場に回り、景気が上向く。(94字)

字数がちょうどよいので、これでもほぼ正解である。ただ始めの文は違和感があるので、わかりやすく設問に合うようにブラッシュアップする。消費税と同じだけ税収が増えるというのも0.4%という仮定の税率の話なので、書き方を変える。

低所得者を含めた国民全体から取る消費税と違い、貯蓄税は富裕層からだけ徴収するので一般庶民に影響は少ない。預金したままでは損になるため、眠っていた金が消費や投資に回り、市場が活気づいて景気が上向く。(98字)

消費税の部分を膨らませるのが難しければ、水色の部分をアレンジして足してもよい。

貯蓄税は富裕層からだけ徴収するので一般庶民に影響は少ない。預金したままでは損になるため、眠っていた金が消費や投資に回り、市場が活気づいて景気が上向く。金庫や貸金庫業など関連ビジネスの可能性も広がる。(99字)

キーワード(センテンス)を拾って、あとは自力でアレンジし、まとめる。

要約もコツをつかんで練習すれば、必ず上達する。

 

[設問2]筆者の考える貯蓄税についてあなたはどのように考えるか述べなさい。

「貯蓄税」について述べる小論文なので、タイプ分けすれば下線部問題といえるが、この課題文は短く、貯蓄税についてのみ語られているので、全体の内容を踏まえて解くタイプの小論文と変わらない。筆者の主張は消費税ではなく、貯蓄税を導入せよと明快なので、この意見に賛成か反対かまず方針を決めよう。

反対意見について考える

この課題文の大半は貯蓄税のメリットについてなので、これを読むと貯蓄税が万能で素晴らしいものに感じるかもしれない。しかし、小論文では誰もが諸手を挙げて賛成するようなテーマはまず出ない。貯蓄税にまったく問題がないのであれば、とうの昔に導入されてはしないだろうか。賛成・反対どちらかで書くにしても、まずは反対意見(問題点・デメリット)について考えてみよう。

まず思い浮かぶのは本文に書いてある、多額の預金していると税金がかかるので預金以外の方法をとる人が増えるということだ。このことに関する影響はいくつか考えられる。

①タンス預金(自宅への現金の保管)をする家庭やその金額が増えれば、それを盗もうという人が現れ、治安が悪化する可能性がある。

②預貯金は銀行の貸付の原資となるが、貯蓄税を導入すれば銀行から預貯金を引き上げる大口顧客が増え、銀行の経営が悪化し金融危機が起こるのではないか。

③筆者の述べる貯蓄税は適用対象があいまいである。1つの銀行、1つの口座1000万円以上を対象とするのか。それともある銀行で500万円、別の銀行に500万円ある場合も適用されるのか。仮にそうだとして、マイナンバー制度の導入で国が複数口座を把握することは理論上可能かもしれないが、その膨大な手間は誰がどのように負担するのか。また、貯蓄税は法人にも適用されるのか。当座預金や証券会社の口座などにも適用されるのか。海外銀行の口座も把握できるのか。そちらへ逃げるだけではないのか。

他にも問題はある。

④貯蓄税は大きな貯蓄のある富裕層から税金を取ろうというものだが、特定層への狙い撃ちは税の公平性という観点から正しいといえるのか。

⑤現在、預金の利子は20%課税されている。また、法人の内部留保と同じように、預金は所得税、相続税などですでに課税された金だ。貯蓄税は二重課税に当たらないか。

⑥筆者のいう1000兆円は庶民や法人の預貯金を合わせた数字である。富裕層だけに課税する貯蓄税を導入したところで、消費税に代わるような税収になるのか。

考え得るだけでもこれだけある。思いついたことを全部書いてしまうとまとまりがなくなるので、指定字数に合わせて使う内容を選ぼう。指定字数が短め(200~400字)の場合は一つの内容だけを膨らませてシンプルに述べる。①の治安悪化はやや安直に見えるので、できれば他の理由にしたい。

貯蓄税に反対で〈筆者の主張→反対→その理由→今後〉このような構成で述べてみる。

筆者は貯蓄税という新しい税金を提案している。筆者の案では1000万円以上の預金口座に課税するというもので、国民全体から幅広く徴収する消費税ではなく、富裕層から取ろうというものである。

私は貯蓄税には反対だ。政府・与党からすれば、富裕層への狙い撃ちは庶民の支持を得やすく障壁が少ないだろうが、このような政策を取れば富裕層としても様々な方策を考えるに違いない。2016年、パナマ文書と呼ばれるタックスヘイブン(租税回避地)に関わる機密文書が明るみに出て、世界的なスキャンダルとなったが、そのなかには日本人の名前もあった。富裕層としても税金を抑えたいと考えるのは当然のことで、課税を強化すれば、海外移住や経営する法人・工場の海外移転など、人や資産、資金の海外流出がいまよりもさらに加速するに違いない。

貯蓄税の導入によって短期的に税収は増えるかもしれないが、長期的に見れば日本にとって大きな損失になりかねない政策である。(395字)

字数が少なく、内容的にも必要ないので、最後の今後(まとめ)はあっさりで、対策などは入れていない。指定字数がさらに少ない場合や設問によっては最初の段落も丸々削ってもよい。そのあたりはケースバイケースで対応できるようにしたい。

「たしかに、しかし」型

「小論文は型で書け」という教え方があるが、その際使うのが、この「たしかに~、しかし~」という型である。必ずしもこの型を使う必要はないし、この型でしか書けないというのでは困るが、構成を考える上で非常に使いやすい型なので覚えておこう。

この型を使った構成はこのようになる。

筆者の意見、あるいは課題文の内容

「たしかに~」筆者の意見(自分とは反対の意見)

「しかし~」それについての反論(自分の意見)とその根拠

結論・今後どうするべきか

例題でいうと、

貯蓄税とはこのようなものである。

たしかに筆者の、消費税は一般国民への影響が大きく、富裕層から取るべきという意見には一理ある。(何か例を入れて膨らませる)

しかし、貯蓄税は適用対象があいまいで問題点が多い。(問題点③の内容を入れる)

そのため、私は貯蓄税には反対だ。

このような構成になる。通常まとめの部分は今後の対策などを述べるが、全面的に反対の場合は「そのため(したがって)導入に反対だ」と書いて終わるほうが自然だ。あるいは、この部分はなくても構わない。

また、次のような書き方もある。

部分否定(条件付き賛成)

全面的に賛成・反対するのではなく、一部分を否定するか、あるいは同意のため条件をつける形だ。これも「たしかに、しかし」型を使うことが多いが、結論は(今後に向けての)別の提案もしくは譲歩・妥協・折衷案を述べる。くだけた感じでいうと、こんな論調だ。

「たしかにその通りだけど、こういう問題があるよね。じゃあこうしたらどうだろう?」

先ほどの例題で見ていこう。

たしかに方針には賛成する。しかし貯蓄税には無理がある。したがって、別の方策にすべきだ。

貯蓄税とは~のようなものである。
たしかに、筆者のいうように消費税は一般国民への影響が大きく、可処分所得(使えるお金)が多い富裕層に課税するという方針には賛成だ。
しかし貯蓄税は適用対象があいまいで、抜け道が多く現実的ではない。

貯蓄税ではなく所得税の累進課税の税率を上げたほうがよい。

部分否定は課題文型小論文の大半に使えるので、使い勝手がよい。

筆者の意見が正論の場合や自分と同じ考え、あるいは自分にとって詳しくない話題だと、課題文に賛成することもあると思うが、全面的に賛成という論調は意外と書きにくい。

全面的賛成は、ただたんに課題文をなぞったような内容になってしまいがちだ。賛成するにしても以下の内容を入れて、自分なりにアレンジしていこう。

①体験談など独自のネタ

②反対意見へのさらなる反論

③筆者の意見を進める内容

①は自分の経験・知識などから、筆者と同じようなことを感じたという論調だ。

②は想定される問題点の反論を述べ、論をより強固なものにする。

③は筆者の意見をさらにこうするべきだと一歩進める。

例題では①の体験談を入れるのは難しいので、②か③を入れる。賛成だが、こういう問題点があるので、その点はこのようにすべきという論調だ。下は「たしかに」は入っていないが、部分否定(条件付き賛成)だ。結論も先ほどのものと変えている。

筆者は貯蓄税という新しい税金を提案している。これは1000万円以上の預金口座に課税するというもので、国民全体から幅広く徴収する消費税ではなく、富裕層から取ろうというものである。(冒頭の段落は反対のときと同じ文)

私も筆者の述べる貯蓄税には可能性を感じる。(たんに「筆者の意見に賛成だ」でもよいが、工夫した言い回しのほうが独自色が出る)日本においても所得格差は広がっており、所得の再分配は課題である。経済の活性化のため、日本にある1000兆円という莫大な預貯金を市場に回すことは有効な手段となりうる。

だが、貯蓄税には問題点が多い。筆者はいわゆるタンス預金については適用しないと述べているが、はたしてそれでよいのか。1000万円以上の口座を複数に分けた場合にも課税しないのか。海外銀行には適用できるのかなど、適用基準も不透明だ。不完全なシステムだと不公平感が増し、富裕層からの不満が噴出するに違いない。(反対意見③の内容)

貯蓄税導入のためには抜け道をなくしていかなくてはならない。私はタンス預金、複数口座、海外口座などにも課税すべきだと考える。そのために想定される課題を洗い出し、実現可能なシステムを模索していく必要がある。(問題点を加味した上で今後の提案)

このように賛成の場合でも課題文から離れた内容を入れ、論を再構築するとオリジナリティのある小論文になる。


課題文型小論文・例題

課題文型小論文では、下線を引いてその下線部についてどのように考えるかという問題もあれば、課題文全体を踏まえた(要旨をまとめた)上で自分の考えを述べなさいという問題もある。

前者の場合は、前項の貯蓄税の問題のようにキーワード(キーセンテンス)が示されているので、何を書けばいいのかわかりやすいが、後者の場合は論点を自分で探さなければならない。論点と書くと何か難しそうだが、要は何について書くかということである。

課題文型小論文の書き方の最初で述べたように、課題文の筆者は特定箇所における論点やテーマなど特に意識していないだろうが、出題者は何について述べてほしいのかはっきりとイメージして問題を作っている。それは何か? その点に注意して課題文を読もう。

例題 次の文を読み、筆者の考えを踏まえた上で、あなたの考えを述べなさい。

 

東急ハンズに買い物に行こうと渋谷駅で降り、スクランブル交差点を渡ると、センター街はとんでもない混雑だった。
何をやっているんだ? ――私は考え、周りを渡してみた。そこにいる若者はアニメ、ゲーム、ディズニー……それぞれ何らかのキャラクターに仮装している。
「ああ、ハロウィンか」
そこで思い至った。ハロウィンが流行っているというのは耳学問としてあったが、この目に見たのは初めてだった。
彼らは何かをしているわけでない。歩いて騒いで写真を撮ってSNSを更新しているだけだ。そこに目的があるようには見えない。私には何が面白いのかさっぱりわからなかった。

だが、しばらく見ているうちに「共有」という言葉が浮かび上がってきた。
共有こそが彼らの目的なのだ。10月末という時間、渋谷という場所、そしてこの雰囲気。やることよりも、ここにいること、それが目的なのだ。それを示す証拠としてSNSを使う。
「私は、俺は、いまここにいる」
そこに主体性は感じない。ハロウィンである必要はない。ただハロウィンの季節がきたから仮装する。クリスマス前には恋人を探す。バレンタインデーにはチョコレートを渡す。大学4年になれば就職活動する。適齢期になれば結婚する。時代や同世代の価値観という同調圧力が押すがままに流される。そこに疑念はないのであろうか。
帰り道、代々木公園を抜ける秋風は冷たく侘しかった。

題材はハロウィンについてである。そう思って「私は若者たちがハロウィンを楽しむことについて賛成である」などと書き出してしまうと、テーマから外れた文章になってしまう。そんなことは聞かれていないからだ。それではどれだけ内容がよくても、高得点にはならない。

もちろん「ハロウィンは元々収穫を祝う祭であったが、日本のハロウィンは祝祭的要素はまったくなく、ただ騒ぐための方便である」という文が出て、それについて賛否を問う問題も考えられるので一概にはいえないが、この例題ではハロウィンはあくまできっかけでしかない。

この課題文にはキーワードは2つある。

わかっただろうか。

「共有」と「主体性」である。

例題のように「~について踏まえた上で」「要旨をまとめた上で」という設問の場合、まず「筆者は~」「課題文では~」というように、簡潔に論点(キーワード)についてまとめたほうがよい。

では、例題の内容についてまとめてみよう。要約問題と違って、小論文に課題文の主張や論旨を入れる場合は「筆者は~」「課題文は~」などと明記する。

筆者は、渋谷のハロウィン(の騒ぎ・あるいはパレード)を見て、時間や空間(場所)、雰囲気を共有することが参加者(若者)の目的であり、そこに主体性は感じないと疑問を投げかけている。(たんに「述べている」でもよい)

内容としては、共有が目的でそこに主体性を感じないという旨さえ書いてあればよい。あとは自分でうまくまとめてみよう。どのような論調で書くにしても、最初はこの文でよい。ただ一文で終わっているので、ハロウィンの現状についてなど足すとさらによい書き出しになる。

ここ数年、日本ではハロウィンに仮装してパレードをすることが流行っている。特に東京の渋谷や六本木などで相当な賑わいを見せているが、筆者は渋谷のハロウィンのパレードを見て、時間や空間、雰囲気を共有することが参加者の目的であり、そこに主体性は感じないと疑問を投げかけている。

この書き出しをもとに、小論文を書き上げていく。

賛成・反対と明快に書ける問題はそう多くない

筆者の考えを受けて自分の考えを述べるわけだが、筆者の考えについて賛成だ、反対だというのはこの例題にはそぐわない。「筆者の意見に同意だ」「筆者の主張には賛同できない」という書き方はできなくもないが、極論になりがちなので無理に賛否を問うような書き方にする必要はない。

この例題ではキーワードが二つあるので、そこに注目してみる。

参加者の目的は共有である→それは正しいか。否か。

そこに主体性はないのか→その通り。それは違う。

内容をこのように分けてみよう。このように分けると部分否定で書きやすくなる。

片方に賛意を示し、もう一方を否定する書き方で書いてみる。

①共有が目的ではあるが、主体性もある

たしかに筆者の述べるように、参加者の目的は共有である。私はロックが好きでライブによく行くが、ライブもメンバーと観客が時間や空間を共有することで興奮が倍増する。会場が一体となって、いまここにしかない瞬間をつくりあげる。ハロウィンもライブと同じように、時間と空間の共有や一体感が醍醐味である。

一方で、筆者はそこに主体性を感じないと述べているが、私はそうは思わない。参加する義務がない以上、行事やイベントに参加すること自体、主体性がないとできない。

また、参加者はたんなる受け手ではない。自分から楽しむという意識を持っている。ライブでいえば、静かに聴く曲も、飛び跳ねる曲もある。ハロウィンでいえば各々が思い思いの仮装をする。同調圧力などではなく、みなが主体性を持って集い、力を合わせて一つの空間をつくりあげているのだ。

たしかに~しかし(ここでは一方で~)型を使い、ロックの話を入れて展開した。課題文型であっても自分ならではのネタを入れることでオリジナリティや説得力が出る。

 

②主体性はないが、目的は共有ではない

次にこのパターンで書いてみよう。

筆者のいうように、ハロウィンの参加者に主体性を感じないというのはわかる。参加者はハロウィンに何か思い入れがあるわけではない。季節の行事や流行りに便乗して盛り上がればよいという考えだ。

だが、参加者の目的は周りと時間や空間を共有することではない。ハロウィンはあくまで舞台装置でしかなく、そこには自分を見てほしいという気持ちが透けて見える。SNSに画像を上げるのはハロウィンの模様をみなに発信したいからではなく、そこに参加している自分を見てほしいがためだ。

テレビ全盛のころ、多くの人はたんなる受け手であった。それがインターネットやスマートフォンの発達により、自分が送り手となることも容易となった。ニコニコ生放送の放送主を指す「生主」やYouTubeの投稿者を指す「ユーチューバー」などが学生の間で人気だが、いまでは誰もが発信者になることができる。多くの人が非日常空間にいる自分を演出したいという気持ちを持っている。その会場として、写真映えのする仮装大会ともコスプレ会場ともいえるハロウィンは最適なのだ。

主体性はなく便乗であるのはたしかだが、そこにあるのは誰かと共有したいというより、自分を見てほしいという気持ちである。このような論調だ。これには動画配信が流行っているという具体的な補足説明を入れた。

部分否定だからといって答えは一つにはならない。様々な書き方が可能だ。自分の考えに合わせて述べていけばよい。

 

③筆者のいうことはもっともだが、そのスタンスには賛同しない

例題の課題文ははっきり~だと述べているわけではないが、ハロウィンに参加する若者に対して、否定的な論調なのは明らかだろう。朝日新聞の天声人語などもそうだが、エッセイ風の文章は考えをはっきり示すのではなく、いいたいことをニュアンスで匂わせて終わりというのも多い。

そこで、書かれている事実やデータはその通りだが、筆者の論調・スタンスは疑問という書き方をしてみる。

たしかに筆者のいうように、渋谷でハロウィンというのは流行りやブームに乗っかった主体性に欠ける行為かもしれない。賑やかな時間、空間を共有したいという気持ちもその通りだろう。だが、私はそれが悪いこととは思わない。たとえば学校行事だ。学校祭や体育祭は自ら企画するわけでなくても、その枠のなかで各々が役割を見つけて周りと一緒に楽しむ。時間や空間を共有する喜びを覚える。行事やイベントというのはそういうものだ。

筆者のいう同調圧力についてもそうだ。就職活動にしても結婚にしても、その時期が最も適しているからそうしているだけだ。それは同調圧力ではなく、たんなる合理的な行動である。

つねに自分主体である必要はどこにもない。生きていくなかで様々な流れに乗ることも大切なことだ。大学や就職先をどこにするのか、あるいは誰と結婚するのかなど、主体性という自分なりの決断はここぞというときにだけ発揮すればよい。

課題文の内容が必ずしも正解というわけではない。論調そのものに否定するという書き方も選択肢として頭に入れておこう。いくつかの書き方のパターンを覚えておけば、多様な問題にも柔軟に対応できる。そのためには毎回出たとこ勝負で書くのではなく、小論文の構成・構造を理解して、それに基づいて書く練習をすることが必要である。


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