課題文型小論文の構成

課題文や設問のパターンによって異なるが、課題文型小論文の基本構成はこうなる。

①筆者の考え(とその根拠)→自分の考え→考えの理由(根拠)→今後どうするべきか
②課題文の要旨(要約・論点)→自分の考え→考えの理由(根拠)→今後(結論)

書く内容を課題文から読み取るという点以外はテーマ型小論文と大きな違いはないが、様々なバリエーションがある。

特に筆者の意見や課題文の論調(要旨)に賛成か反対、部分的に賛成、部分的に反対かで構成は変わる。下記のようなパーツをうまく組み合わせて小論文に仕立てていくわけだが、いかなる場合でも自分の考えとその理由だけは欠かせない。字数が短い場合や論調によって、最後の今後どうするべきか(今後の対策・これからのあり方)は、入れないケースもある。

・課題文の要旨(要約・論点)・筆者の考え ・筆者の考えの根拠 ・自分と反対の意見(とその根拠) ・一般論(現状)・自分の考え ・自分の考えの理由(根拠・具体例)・今後どうするべきか(対策・見通し)

テーマ型小論文現状分析型では分析①・分析②、利点・問題点、メリット・デメリットと説明していた部分が、課題文型の場合「自分の意見とその反対の意見」となる。自分の意見とその意見の問題点・デメリット・反対意見についても考察することで論に説得力や深みが出る。

では例題を見ていこう。

 消費税がまた上がるようだが、金持ちから取れよと思う。消費税を2%上げたところで、増える税収はたかだか4兆円ほどだ。それだけなのになぜ庶民から取ろうとするのか。消費税を上げたら確実に消費は冷える。景気が失速してしまう危険性だって否めない。
日本には1000兆円もの預貯金がある。しかもこの金の多くは何の役にも立たず眠っている。庶民のなけなしの4兆円より、この1000兆円をどうにかしたほうがいいに決まっている。
その方策として考えられるのは貯蓄税だ。1000万円以上の預貯金に数パーセント課税する。庶民には関係ない。金に余裕のある人からいただく。単純計算すると、1000兆円に年間0.4%課税するだけで消費税と同じ4兆円税収が増える。預金するのは損だと考える人も出てきて、消費や投資が活性化する。眠っていた金が市場に回り、景気が上向く。まさにいいことづくめだ。
貯蓄税を導入すれば、預金がタンスや貸金庫に回るだけだという批判があるが、同じことはペイオフ導入のときにもいわれていた。そんな人は全体の一部だし、仮にそうなったってデカいタンス(金庫)や貸金庫業が潤って金が回るんだから、それはそれでよい。そんな批判は金持ちの難癖でしかない。

※ペイオフ…銀行・信用金庫などの金融機関が破綻したとき、1000万円までの預金(とその利息)が保護される制度。つまり、それ以上の預金については保護されない。日本では2005年に導入されたが、それ以前預金は全額保護されていた。

[設問1]筆者が述べる貯蓄税のメリットについて100字以内でまとめなさい。

まずは要約問題である。要約問題では「筆者は~」「課題文では~」とつける必要はない。また、原稿用紙の冒頭1マスは空けない。改行もしない。

要約のコツはこの3つ

①キーワードを拾う

要約の採点をする際、キーとなる言葉や文章が入っているかどうかを見る。したがってその入れるべき言葉は何かを探すことが必要だ。キーワード(キーセンテンス)は1つとは限らない。

②具体例やたとえ話は削る

文章では述べたいことを補足するため具体例やたとえ話を入れるが、要約では不要なので、その部分は削る。

③自分でまとめる

キーワード(キーセンテンス)を取り入れて、設問に合うようにまとめる。現代文の試験より指定字数は長いので、文を書き抜いて組み合わせてもうまくいかないことが多い。最後は自分の言葉でまとめる意識でやったほうがよい。

設問1は貯蓄税のメリットについてなので、それが述べられている部分を探していく。

消費税がまた上がるようだが、金持ちから取れよと思う。消費税を2%上げたところで、増える税収はたかだか4兆円ほどだ。それだけなのになぜ庶民から取ろうとするのか。消費税を上げたら確実に消費は冷える。景気が失速してしまう危険性だって否めない。
日本には1000兆円もの預貯金がある。しかもこの金の多くは何の役にも立たず眠っている。庶民のなけなしの4兆円より、この1000兆円をどうにかしたほうがいいに決まっている。
その方策として考えられるのは貯蓄税だ。1000万円以上の預貯金に数パーセント課税する。庶民には関係ない。金に余裕のある人からいただく。単純計算すると、1000兆円に年間0.4%課税するだけで消費税と同じ4兆円税収が増える。預金するのは損だと考える人も出てきて、消費や投資が活性化する。眠っていた金が市場に回り、景気が上向く。まさにいいことづくめだ。
貯蓄税を導入すれば、預金がタンスや貸金庫に回るだけだという批判があるが、同じことはペイオフ導入のときにもいわれていた。そんな人は全体の一部だし、仮にそうなったってデカいタンス(金庫)や貸金庫業が潤って金が回るんだから、それはそれでよい。そんな批判は金持ちの難癖でしかない

貯蓄税という言葉の前後に注目する。金額はたとえ話なので省いた。黄色のついた部分がキーセンテンスなので、まずこの部分を抜き出してみる。冒頭に「貯蓄税は」という言葉だけ足した。

貯蓄税は庶民には関係ない。金に余裕のある人からいただくだけで消費税と同じ税収が増える。預金するのは損だと考える人も出てきて、消費や投資が活性化する。眠っていた金が市場に回り、景気が上向く。(94字)

字数がちょうどよいので、これでもほぼ正解である。ただ始めの文は違和感があるので、わかりやすく設問に合うようにブラッシュアップする。消費税と同じだけ税収が増えるというのも0.4%という仮定の税率の話なので、書き方を変える。

低所得者を含めた国民全体から取る消費税と違い、貯蓄税は富裕層からだけ徴収するので一般庶民に影響は少ない。預金したままでは損になるため、眠っていた金が消費や投資に回り、市場が活気づいて景気が上向く。(98字)

消費税の部分を膨らませるのが難しければ、水色の部分をアレンジして足してもよい。

貯蓄税は富裕層からだけ徴収するので一般庶民に影響は少ない。預金したままでは損になるため、眠っていた金が消費や投資に回り、市場が活気づいて景気が上向く。金庫や貸金庫業など関連ビジネスの可能性も広がる。(99字)

キーワード(センテンス)を拾って、あとは自力でアレンジし、まとめる。

要約もコツをつかんで練習すれば、必ず上達する。

[設問2]筆者の考える貯蓄税についてあなたはどのように考えるか述べなさい。

「貯蓄税」について述べる小論文なので、タイプ分けすれば下線部問題といえるが、この課題文は短く、貯蓄税についてのみ語られているので、全体の内容を踏まえて解くタイプの小論文と変わらない。筆者の主張は消費税ではなく、貯蓄税を導入せよと明快なので、この意見に賛成か反対かまず方針を決めよう。

反対意見について考える

この課題文の大半は貯蓄税のメリットについてなので、これを読むと貯蓄税が万能で素晴らしいものに感じるかもしれない。しかし、小論文では誰もが諸手を挙げて賛成するようなテーマはまず出ない。貯蓄税にまったく問題がないのであれば、とうの昔に導入されてはしないだろうか。賛成・反対どちらかで書くにしても、まずは反対意見(問題点・デメリット)について考えてみよう。

まず思い浮かぶのは本文に書いてある、多額の預金していると税金がかかるので預金以外の方法をとる人が増えるということだ。このことに関する影響はいくつか考えられる。

①タンス預金(自宅への現金の保管)をする家庭やその金額が増えれば、それを盗もうという人が現れ、治安が悪化する可能性がある。

②預貯金は銀行の貸付の原資となるが、貯蓄税を導入すれば銀行から預貯金を引き上げる大口顧客が増え、銀行の経営が悪化し金融危機が起こるのではないか。

③筆者の述べる貯蓄税は適用対象があいまいである。1つの銀行、1つの口座1000万円以上を対象とするのか。それともある銀行で500万円、別の銀行に500万円ある場合も適用されるのか。仮にそうだとして、マイナンバー制度の導入で国が複数口座を把握することは理論上可能かもしれないが、その膨大な手間は誰がどのように負担するのか。また、貯蓄税は法人にも適用されるのか。当座預金や証券会社の口座などにも適用されるのか。海外銀行の口座も把握できるのか。そちらへ逃げるだけではないのか。

他にも問題はある。

④貯蓄税は大きな貯蓄のある富裕層から税金を取ろうというものだが、特定層への狙い撃ちは税の公平性という観点から正しいといえるのか。

⑤現在、預金の利子は20%課税されている。また、法人の内部留保と同じように、預金は所得税、相続税などですでに課税された金だ。貯蓄税は二重課税に当たらないか。

⑥筆者のいう1000兆円は庶民や法人の預貯金を合わせた数字である。富裕層だけに課税する貯蓄税を導入したところで、消費税に代わるような税収になるのか。

考え得るだけでもこれだけある。思いついたことを全部書いてしまうとまとまりがなくなるので、指定字数に合わせて使う内容を選ぼう。指定字数が短め(200~400字)の場合は一つの内容だけを膨らませてシンプルに述べる。①の治安悪化はやや安直に見えるので、できれば他の理由にしたい。

貯蓄税に反対で〈筆者の主張→反対→その理由→今後〉このような構成で述べてみる。

筆者は貯蓄税という新しい税金を提案している。筆者の案では1000万円以上の預金口座に課税するというもので、国民全体から幅広く徴収する消費税ではなく、富裕層から取ろうというものである。

私は貯蓄税には反対だ。政府・与党からすれば、富裕層への狙い撃ちは庶民の支持を得やすく障壁が少ないだろうが、このような政策を取れば富裕層としても様々な方策を考えるに違いない。2016年、パナマ文書と呼ばれるタックスヘイブン(租税回避地)に関わる機密文書が明るみに出て、世界的なスキャンダルとなったが、そのなかには日本人の名前もあった。富裕層としても税金を抑えたいと考えるのは当然のことで、課税を強化すれば、海外移住や経営する法人・工場の海外移転など、人や資産、資金の海外流出がいまよりもさらに加速するに違いない。

貯蓄税の導入によって短期的に税収は増えるかもしれないが、長期的に見れば日本にとって大きな損失になりかねない政策である。(395字)

字数が少なく、内容的にも必要ないので、最後の今後(まとめ)はあっさりで、対策などは入れていない。指定字数がさらに少ない場合や設問によっては最初の段落も丸々削ってもよい。そのあたりはケースバイケースで対応できるようにしたい。

「たしかに、しかし」型

「小論文は型で書け」という教え方があるが、その際使うのが、この「たしかに~、しかし~」という型である。必ずしもこの型を使う必要はないし、この型でしか書けないというのでは困るが、構成を考える上で非常に使いやすい型なので覚えておこう。

この型を使った構成はこのようになる。

筆者の意見、あるいは課題文の内容

「たしかに~」筆者の意見(自分とは反対の意見)

「しかし~」それについての反論(自分の意見)とその根拠

結論・今後どうするべきか

例題でいうと、

貯蓄税とはこのようなものである。

たしかに筆者の、消費税は一般国民への影響が大きく、富裕層から取るべきという意見には一理ある。(何か例を入れて膨らませる)

しかし、貯蓄税は適用対象があいまいで問題点が多い。(問題点③の内容を入れる)

そのため、私は貯蓄税には反対だ。

このような構成になる。通常まとめの部分は今後の対策などを述べるが、全面的に反対の場合は「そのため(したがって)導入に反対だ」と書いて終わるほうが自然だ。あるいは、この部分はなくても構わない。

また、次のような書き方もある。

部分否定(条件付き賛成)

全面的に賛成・反対するのではなく、一部分を否定するか、あるいは同意のため条件をつける形だ。これも「たしかに、しかし」型を使うことが多いが、結論は(今後に向けての)別の提案もしくは譲歩・妥協・折衷案を述べる。くだけた感じでいうと、こんな論調だ。

「たしかにその通りだけど、こういう問題があるよね。じゃあこうしたらどうだろう?」

先ほどの例題で見ていこう。

たしかに方針には賛成する。しかし貯蓄税には無理がある。したがって、別の方策にすべきだ。

貯蓄税とは~のようなものである。
たしかに、筆者のいうように消費税は一般国民への影響が大きく、可処分所得(使えるお金)が多い富裕層に課税するという方針には賛成だ。
しかし貯蓄税は適用対象があいまいで、抜け道が多く現実的ではない。

貯蓄税ではなく所得税の累進課税の税率を上げたほうがよい。

部分否定は課題文型小論文の大半に使えるので、使い勝手がよい。

筆者の意見が正論の場合や自分と同じ考え、あるいは自分にとって詳しくない話題だと、課題文に賛成することもあると思うが、全面的に賛成という論調は意外と書きにくい。

全面的賛成は、ただたんに課題文をなぞったような内容になってしまいがちだ。賛成するにしても以下の内容を入れて、自分なりにアレンジしていこう。

①体験談など独自のネタ

②反対意見へのさらなる反論

③筆者の意見を進める内容

①は自分の経験・知識などから、筆者と同じようなことを感じたという論調だ。

②は想定される問題点の反論を述べ、論をより強固なものにする。

③は筆者の意見をさらにこうするべきだと一歩進める。

例題では①の体験談を入れるのは難しいので、②か③を入れる。賛成だが、こういう問題点があるので、その点はこのようにすべきという論調だ。下は「たしかに」は入っていないが、部分否定(条件付き賛成)だ。結論も先ほどのものと変えている。

筆者は貯蓄税という新しい税金を提案している。これは1000万円以上の預金口座に課税するというもので、国民全体から幅広く徴収する消費税ではなく、富裕層から取ろうというものである。(冒頭の段落は反対のときと同じ文)

私も筆者の述べる貯蓄税には可能性を感じる。(たんに「筆者の意見に賛成だ」でもよいが、工夫した言い回しのほうが独自色が出る)日本においても所得格差は広がっており、所得の再分配は課題である。経済の活性化のため、日本にある1000兆円という莫大な預貯金を市場に回すことは有効な手段となりうる。

だが、貯蓄税には問題点が多い。筆者はいわゆるタンス預金については適用しないと述べているが、はたしてそれでよいのか。1000万円以上の口座を複数に分けた場合にも課税しないのか。海外銀行には適用できるのかなど、適用基準も不透明だ。不完全なシステムだと不公平感が増し、富裕層からの不満が噴出するに違いない。(反対意見③の内容)

貯蓄税導入のためには抜け道をなくしていかなくてはならない。私はタンス預金、複数口座、海外口座などにも課税すべきだと考える。そのために想定される課題を洗い出し、実現可能なシステムを模索していく必要がある。(問題点を加味した上で今後の提案)

このように賛成の場合でも課題文から離れた内容を入れ、論を再構築するとオリジナリティのある小論文になる。

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